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白色光の色調を自在に合成できる新LED京都大学 川上養一,船戸充

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 発光ダイオード(LED)の発光色は,発光層の材料や量子井戸構造を決めたときにその禁制帯に対応した単色光となります。したがって,単一のLEDからの発光は,色純度の高い鮮やかな色となります。一方,白色光は,青と緑と赤の三原色や,青と黄,緑と赤,など補色の関係にある発光色を混ぜることで得られます。現在最も多く用いられている白色LEDは補色の原理を利用しており,窒化物半導体青色LEDで黄色YAG蛍光体を励起し,それら青と黄色発光を混ぜることで白色を得ています。このタイプの白色LEDは,最近では,蛍光灯をはるかに凌駕する150lm/Wを超える発光効率の報告もなされ,固体照明光源の中心的役割を果たすものと期待されています。しかし,この白色LEDで赤いりんごを照らすと,光に赤色の成分が少ないため,太陽光で照らしたときよりも,黒っぽく不自然に見えてしまいます。このことは,照明工学における演色性の問題ですが,場合によっては,所望の物体色を自然に見せるだけではなく,所望の色合いを強調することにも有効であり,光源スペクトルをそれにあわせて合成する必要があることを示しています。われわれは,このような指針で設計・作製された光源をテーラーメイド光源と呼んでおり,一般照明はもとより,医療(病変部と健常部の見極め),バイオ(分子のラベリング)など,より高品位な固体照明の基盤技術となると考えています。
 さて,そのような目的に対して,現行の白色LEDはいくつかの問題を含んでいます。例えば,(a)青色LED の発光を蛍光体で黄色や赤色に変換する際に,ストークス損と呼ばれる約数十% のエネルギー損失が避けられないこと,(b) 蛍光体の発光の多くは,広い波長域にわたるブロードな発光であるため,発光色の微調整やいったん調整した発光色を変更することが難しいことが挙げられます。これらの解決を図るには,発光スペクトルすべてをLEDで構成する蛍光体フリー白色LEDが望ましいものと考えています。ただし,RGB三原色のLEDを用いる方法は,駆動回路が3 系統必要であり,異なる材料のLEDチップを集積化するにも限界があります。また,発光色の異なる量子井戸を積層した構造では,各量子井戸が電気的に直列接続されているため,各発光色の相対発光強度を制御することができません。
 これに対して私たちのグループは,窒化物半導体(GaN)に微細な凹凸をもたせることにより,1つのLED から青,黄,赤色などの複数の色を同時に出すことに成功しました。このようなGaNマイクロ構造は,有機金属気相成長法を利用した結晶再成長によって得ることができ,通常,ファセットと呼ばれる(0001)極性面や(112-2)半極性面など,いくつかの結晶面で囲まれた,かまぼこ状の三次元構造から形成されています。試作したLEDは,n 型GaNマイクロファセット構造上のInGaN/GaN量子ナノ構造(発光層),p 型GaNキャップ層で構成されており,各ファセット上の量子井戸発光層が電気的に並列接続されていることが特徴となっています。このとき,発光層のInGaN膜厚や組成がファセットに依存するため,各ファセット量子井戸から異なる発光色が得られます。この多色発光を加色混和することにより,さまざまな発光色を実現しようというのが基本的なアイデアです。写真は,サファイア基板上にパターン形成したマルチファセットLED(サイズは500mm角)からの発光の様子を示しており,色温度5000Kの純白色を呈しています。
 今回開発した新LEDは,これまでに高効率発光を実証してきた(112-2)半極性面を利用しているため,白色LEDのさらなる高効率化が期待できます。さらに,三次元構造であるため,発光層からの光を容易に外部に取り出すこともできます。そのため,現在使われているあらゆる照明よりも,エネルギー変換効率の高い光源となる可能性を秘めています。任意の色を自由に表現できる高効率テーラーメイド光源を目指して,日夜研究が続いています。

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