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HARP方式超高感度撮像管と緊急報道NHK放送技術研究所 谷岡健吉

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 上の写真は,1995年6月22日に放送された全日空機ハイジャック事件を伝えるNHKニュースの映像の1コマである。撮影時刻は午前3時半過ぎ,場所は函館空港である。暗くて,肉眼ではほとんど見えないジャンボジェット機の下で,機内突入の準備を進める機動隊の姿がはっきりと映し出されている。この映像を捉えたのは,HARP方式超高感度撮像管(写真左下)を内蔵したHARPハンディーカメラ(写真右下)である。
 従来から暗い被写体を撮るカメラとしては,SIT管やイメージインテンシファイアーなどの超高感度撮像デバイスを用いたものが知られていた。しかし,これらはいずれもノイズが多かったり,解像度が不十分など,画質に難点があった。
 このためNHK放送技術研究所(技研)では,超高感度と高画質の両立をめざした撮像デバイスの研究に取り組んだ。その結果,1985年,撮像デバイス用のアモルファス セレン半導体の光電変換膜において,一定の条件下で安定なアバランシェ増倍現象(電子なだれ増倍現象)が起き,これを利用することで超高感度と高画質の両立が可能なことを世界で初めて見出した。これを基に,HARP(Highミgain Avalanche Rushing amorphous Photoconductor)方式と呼ばれる新たな撮像管をメーカーと共同で開発した。
 この撮像管の感度は年々高められてきたが,肉眼を上回る感度の新型のHARP方式撮像管(CCDの約100倍の感度)が完成したのは,ハイジャック事件の起きる約1ヶ月前であった。同年6月上旬の技研公開に備えての開発であった。HARPカメラの公開展示も無事に終え,一息ついていた6月21日,本部より技研に事件発生の第一報と,そのカメラによる函館空港中継現場への応援要請があった。研究用の試作カメラが果たして現場で動作するであろうか,と躊躇した。しかし照明が許されない夜間の緊急中継では,技術の総力結集が不可欠である。覚悟を決め,カメラを抱えて羽田から最終便で北海道に飛んだ。
 この緊急報道での使用でその存在が広く知られるようになったHARP方式撮像管は,現在では放送のみならず,癌の早期発見等を目的とした次世代X線医療診断実験システムや深海探査機などに活用されている。
 しかしこの写真で今思い出すのは,暗闇が撮れたことよりも,1人の犠牲者もなく事件が無事解決し,明け方の中継現場で胸をなで下ろしたことである。

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