【重要】技術情報誌『O plus E』休刊のお知らせ

実験屋はシミュレーションを過信せず,実験結果に真摯に向き合ってほしい富山県立大学 野村 俊

工作機械と自動制御に関心があった

聞き手:富山大学工学部を選ばれた理由をお教えいただけますか。

野村:富山県に生まれて自宅から通える富山大学に入学しました。富山県は北陸では工業県で,飯のタネには工学部が良かろうと工学部を選びました。学科の選考に関しては,工作機械と自動制御に関心があり,生産機械工学科を選びました。
 当時,大学院では卒業研究でホログラフィ干渉法を研究していました。パターンで応力や歪を計測する方法として,それまでに光弾性法というのもありました。光弾性法は,実際の試料ではなく板状の樹脂を加工してモデルを製作し,その試料に光を透過させる方法です。ホログラフィ干渉法は実際の部品をそのまま計測することができ,応用面がさらに広がる可能性があり,もっと研究をしたいと思って大学院に進学しました。
 修士課程を修了してからは,YKK(吉田工業(株))に入社しました。会社が自宅に近いこともあり,趣味の釣りと山菜採りが続けられると思っていましたが,勤務したのは,1年間だけでした(笑)。残業が多く休みも少なくて,この状態が続くと自分の趣味の時間が無くなることに耐えられなくなったからです。
 しかし,大学に勤務しただけでは得られない貴重な経験を企業でさせてもらえました。
 退社してから,富山大学の恩師の吉川和男先生に紹介していただき,富山県立技術短期大学の教員募集に応募しました。前年度から計測関係の教員を公募していて適任者がいなかったし,自宅から通うことができるからです。
 修士修了の学歴でも良いとのことで入りましたが,短大の学長から,「短大から4年制の大学になる計画があり,学位を至急取得するように」と言われ,自分の趣味の時間が取れなくて,話が違う,と思いました(笑)。ですから,私は短大に勤務してから学位を取りました。
 当時の富山県立技術短期大学の学長が故・西田正孝先生でした。西田先生が前に所属されていた理化学研究所(以下,理研)の研究室の,当時の主任研究員が斉藤弘義先生であり,研修先として紹介してくださいました。
 当時の理研には,斉藤弘義先生,山口一郎先生,中島俊典先生,谷田貝豊彦先生,小松進一先生がいらっしゃる,とっても恵まれた環境でした。
 山口先生からはスペックル計測法,中島先生からはホログラフィ干渉法,谷田貝先生からはCGH(計算機ホログラム)と信号処理に関して教えていただきました。斉藤先生からは登山も教えていただきました。
 学位の研究内容として選んだのは,ホログラフィで,面白そうと思ったからです。
 研究内容としては,1枚の乾板に時間を空間に置き換えてホログラムとして記録し,動いている物体の表示を可能としたものです。
 スリット状の透過形状の絞りをホログラムとなる乾板手前で移動させながら記録し,時間軸を空間軸に置き換えてホログラムを作ることや,変形の時間微分成分の情報を取り出すことなどをしました。
 その内容を,理研の斉藤先生の紹介で,東京工業大学の辻内順平先生の研究室に内地留学し,学位論文として提出しました。横浜の長津田にキャンパスができたばかりの頃でした。当時の東京工業大学では,本田捷夫先生と故 上羽貞行先生が助教授でしたが,いろいろとご指導をいただきました。
 精密工学会で河野嗣男先生が委員長を務められたインプロセス計測加工制御技術専門委員会では,形状計測部門を担当することになり,その関係で富山県内にある(株)不二越とも共同研究をしました。超精密旋盤で加工したミラーの形状誤差測定について,最初はフィゾー干渉計を加工機の上に搭載し研究を行いました。ご存知の通り,干渉計は振動に弱く,機械を止めるなど実験が大変でした。そこで,共通光路型のゾーンプレート干渉計に着目して,CGHでゾーンプレートを製作し,これを用いたオンマシン用干渉計を富士写真光機(株)の小林冨美男さんの協力を得て開発しました。
 また,富士写真光機(株)の故・鈴木正根さんから,レンズの形状検査用の原器が正しい値ではないので困っていることをお聞きし,ゾーンプレートで二次元形状を作成し,その回折光で三次元情報を出す,という方法を検討しました。
 ここでも,理研で谷田貝先生に教えていただいたことを有効に使うことができました。
 本田先生からすばる望遠鏡の主鏡の形状をクロスチェックするお話をいただき,大型のゾーンプレートを描画する装置も作りました。これは残念ながらタイミングが合わず,測定するには至りませんでした。ただ,準備段階では,鉱山跡地でコントラベス社が主鏡を磨いているところや,ハワイのマウナケアの山頂に据え付けられた主鏡を見学させていただき,今ではなかなか入ることのできないようなところなので,楽しい思い出のひとつです。

シリコンインゴット切断装置の内周刃ブレードの平面度測定装置


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野村 俊

野村 俊(のむら・たかし)

1950年 富山生まれ 1973年 富山大学工学部生産機械工学科卒 1975年 富山大学大学院工学研究科生産機械工学専攻修士課程修了 1975年 吉田工業㈱ 1976年 富山県立技術短期大学機械科助手 1981年 富山県立技術短期大学機械科講師 1989年 富山県立技術短期大学機械科助教授 1990年 富山県立大学工学部助教授 2001年 富山県立大学工学部教授 2016年 同大学退職 2016年 同大学地域就職アドバイザー 現在に至る
●研究分野
計測工学,機械力学
●主な活動・受賞歴等
1973年 日本機械学会畠山賞 1996年 とやま賞 2006年 日本機械学会学会賞 2006年,2008年 先端加工学会論文賞 2015年 精密工学会沼田記念論文賞

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