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レーザーによる高速表面ナノ加工を利用した「かたちによる着色」神奈川県産業技術センター*,東京工業大学** 金子智*,吉本護**

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 美しくきれいに輝く孔雀の羽の模様には色素はない。一般に自然界の発色は次の3つの仕組みに起因している。①色素の光吸収による発色(そばかす),②選択的な光散乱による発色(青い空),③光干渉による発色(シャボン玉),などである。孔雀の羽の細部を拡大して見ていくと色はなくなる。そして,見えてくるのは微細な「かたち」である。髪の毛の太さの数100分の1の程度の微細なナノ構造が色の原因であり,これらの色は「構造色」とも呼ばれている。紫外線などによる色劣化はなく,構造が壊れない限り「色落ち」はしない。図1の写真で示す鮮やかなリングも構造色であり,同心円に輝いている部分には,図2に示すような周期的なナノ構造が存在している。
 周期的ナノ構造は,2 種類の波長(可視光:532nmおよび赤外光:797nm)の連続レーザー照射を使ったシリコンの熱処理(レーザーアニール)実験中に,偶然見つかったものである。本研究は,神奈川県産業技術センター,レーザー装置ベンチャー企業のフェトン(株),および東京工業大学との産学官連携による神奈川県推進の創業期・製品化モデル事業プロジェクトがきっかけである。当初,シリコン基板のレーザーアニールにより表面の均一な低抵抗化を目指していたが,実際は縦方向と横方向とで違った抵抗値を示す不均一な表面が現れた。そこで,アニール後の表面構造を観察したところ,米粒状の凹凸が多数見つかった。レーザー照射条件を最適化する過程で,この凹凸がナノスケールで周期的なトレンチ(溝)構造へと成長することが分かった。しかも,その時の連続レーザービームの走査速度は,分速300mという高速なものであった。一方,レーザーを用いたナノレベル周期構造の作製には,超短パルスレーザーであるフェムト秒レーザー照射による加工もある。この場合,広範囲な周期的ナノ構造形成のためには,連続レーザーと違い,パルスレーザーの集光点をオーバーラップさせながら走査する必要があり,走査速度が大幅に制限されるという欠点がある。
 フェムト秒レーザーによる表面ナノ構造の形成は超短パルス光(約10−14 秒)による非熱的過程とされているが,本研究の連続レーザーの場合には,熱的平衡過程も大きく関与すると考えられる。実際,有限要素法によるシミュレーションでは,材料の溶融時間にしきい値があるようである1)。今回の連続レーザーによる高速表面ナノ加工の詳細な機構の解明は今後の課題であるが,現時点では,赤外レーザー光照射により熱溶融した基板ターゲットの「海面」上に,可視光レーザーが「漂う」ことで周期的な構造形成につながるというイメージを抱いている。今後の研究の進展次第では,ガラスやプラスチック,金属などへのナノ表面高速加工技術に発展していく可能性があり,高性能薄膜太陽電池用ガラス基板や通信光学部品,およびバイオセンサー基材などの表面処理加工といった実用化展開が期待される。

参考文献

  • -S. Kaneko, T. Ito, K. Akiyama, M. Yasui, C. Kato, S. Tanaka, Y. Hirabayashi, A. Mastuno, T. Nire, H.Funakubo, and M. Yoshimoto :“Nano-strip grating lines self-organized by a high speed scanning CW laser,” Nanotechnology, vol.22, No.17, 175307-1-6(2011)

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