セミナーレポート
ロボットビジョンの現状と展望~生産・物流から生活支援まで~中京大学 工学部長 橋本 学
本記事は、国際画像機器展2017にて開催された特別招待講演を記事化したものになります。
最新の研究事例 Amazon Robotics Challengeへの3年間の挑戦
我々はAmazon Robotics Challenge(ARC)という国際ロボット競技大会に,2015年から3年間挑戦してきました。ARCは,Amazonの実際の倉庫を想定し,様々な種類の商品をロボットによって自動でピッキングする正確さを競うものです。ですから,一つひとつの物品に関してよく考えないといけません。例えば,黒い軍手のようなものは,レンジファインダーでは光が還ってきませんし,2016年のライプツィヒ大会では,透明な水が入ったペットボトル,2017年の名古屋大会では,完全に透明なワイングラスまで登場しました。競技では,簡単に言えば「どこに」「何があって」「どうつかむか」という3つの問題を解かなければなりません。そのための基本技術として,3次元局所特徴量を用いた物体認識があります。ARCは特定物体認識ですから,位置と姿勢を認識することが必要になります。そこで,我々の研究室で開発したのが,局所特徴量のひとつである「ベクトル・ペア・マッチング」という方法です。対象物に対して3点ワンセットの特徴量を捉え,その特徴量をもとにモノを認識します。
関連技術として,仮想的に対象物を上から落とし,その情報を使って,どのような特徴量が本当に効果があるのかを事前シミュレートさせ,良い特徴量を選ぶ,という技術を開発しました。その結果,従来の方法より短い処理時間で,非常に高い認識率を実現しました。また,ライプツィヒ大会では,複数の物体が存在するというシチュエーションが多く現れるようになりました。そこで,複数物体を同時に認識させるための仮説検証のアルゴリズムを開発しました。
ARCでは,モノを識別した後で,ロボットにうまくピッキングさせる技術も必要になります。名古屋大会では,事前に公開されていないアイテムが使われるようになったため,モデルなしで未知物体の把持位置を決めるロボット把持位置の自動決定の技術や,ピッキングの「リスク」を最小化する,ロボットの動作パラメーターの自動決定技術を開発しました。これらの技術を使い,名古屋大会では「Stowタスク(棚に商品をしまう)」で,世界3位を入賞しました。
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中京大学 工学部長 橋本 学
1987年大阪大学大学院工学研究科前期課程修了。同年三菱電機(株)入社。生産技術研究所,産業システム研究所,先端技術総合研究所にてロボットビジョン,3次元視覚等の研究開発に従事。2008年中京大学 情報理工学部 教授。2013年より同大学 工学部 教授。2017年より同大学 工学部長。博士(工学)。1998年度日本ロボット学会実用化技術賞,2012年度画像センシングシンポジウム優秀学術賞,2015年度精密工学会画像応用技術専門委員会小田原賞,2017年度IWAIT Best Paper Award等受賞。