セミナーレポート
歩容認証:歩き方の個性に基づく個人認証大阪大学 産業科学研究所 准教授 槇原 靖
本記事は、国際画像機器展2017にて開催された特別招待講演を記事化したものになります。
実利用や歩行映像データベース構築に向けた取り組み
歩容認証は,防犯カメラを使った犯罪捜査への応用が期待されています。現在の歩容に基づく人物鑑定では,歩容認証の専門家(研究者)に依頼する場合,研究や教育の合間を縫っての作業となることから平均して3ヶ月程度もかかってしまいます。捜査員からは,もっと早く結果を出してもらい,捜査の進展に使いたいという要望があります。そこで,専門家に依頼をしなくても,捜査員自らが適時に歩容鑑定を利用できる,世界初の歩容鑑定システムを開発しました。日本では2009年に初めて捜査に活用され,以降,警察からの依頼により10件の鑑定を行ってきました。科学警察研究所と共同研究を行い,2013年より試験運用を開始し,2016年末には,日本の裁判所で初めて鑑定結果が証拠採用されました。さらに,2013年から年1回,2017年度からは年2回,科捜研鑑定職員向けの研修を実施しており,今後,各都道府県の科捜研への展開が期待されます。昨今,ディープラーニングが幅広い分野で使われており,それは歩容認証の分野でも例外ではありません。そこで求められるのが,大規模な歩行映像のデータベースです。観測方向をはじめとする条件変化に頑健な歩容認証のための学習データや,信頼性の高い性能評価のためにも,大規模な歩行映像データベースが必要です。現状としては,被験者数100名規模の歩行映像データベースがほとんどで,世界的に見ても大きなデータベースはありません。理想としては,10万人規模で,かつ条件変化も含まれているデータベースが望まれます。
そこで,我々は日本科学未来館の常設展示を利用し,2015年7月から約1年間にわたり,「アルクダケ 一歩で進歩」と題して,歩行映像解析技術のデモおよび技術を紹介しました。その中で参加者の同意をいただき,操作者不要の自動デモ・データ収集システムにより,7万3000人あまりのデータベースを集めることに成功しました。そこでは,幅広い年代・性別で,様々な観測方向から,多様かつ自然な荷物保持状況のリアルなデータが収集されました。これらの大規模なデータベースを活用することにより,観測方向変化に対する性能や,歩行映像に基づく年齢推定の性能が向上したことが確認できました。これらの歩行映像データベースは研究室のウェブサイトで順次公開しており,幅広く活用していただけるようになっています。
大阪大学 産業科学研究所 准教授 槇原 靖
2001年 大阪大学工学部応用理工学科卒業。2002年 同大学大学院工学研究科電子制御機械工学専攻博士前期課程修了。2005年 同専攻博士後期課程修了。博士(工学)。同年同大学産業科学研究所特任助手,2006 年同研究所助手,2007年 同研究所助教,2014年 同研究所准教授となり現在に至る。サービスロボットのための対話的な物体認識,犯罪捜査やディジタルエンターテインメントのための歩行映像解析に関する研究に従事。