セミナーレポート
歩容認証:歩き方の個性に基づく個人認証大阪大学 産業科学研究所 准教授 槇原 靖
本記事は、国際画像機器展2017にて開催された特別招待講演を記事化したものになります。
歩容認証の課題
歩容認証の課題としては,観測(歩行)方向の違いにより,単純な照合ではうまくいかない場合が挙げられます。そこで,我々は,方向変換モデルを学習させることを行っています。認識対象の人物(例えば犯人や被疑者)の映像を様々な方向から集めるのは難しいため,認識対象外の学習用の人物(例えば研究室のメンバーやボランティア被験者)を使い,様々な方向からの映像を収集します。それに対して,歩容特徴の方向を変換するモデルを学習させます。それを実際に認識対象の人物に適用することで,登録と入力が異なった映像を与えられた場合に,登録映像を入力映像と同じ方向に変換し,照合させます。ほかにも,歩行速度によって歩行の様態が変わり,歩容認証が難しくなる課題があります。犯行現場から急いで逃げ去る犯人と,通常の生活においての被疑者の歩行には大きな違いがあり得るため,それらの違いを吸収することが必要になります。そこで,速度変換モデルを開発しました。映像を,足の長さや太さといった静的特徴と,歩行速度の違いといった動的特徴とに分離し,動的特徴に関しては方向変換モデルと同じアイデアを適用し,同じ速度に合成させたものを静的特徴と合わせて復元させます。
服装や荷物の違いもシルエットの違いに表れてきます。荷物の有無による輝度値を単純に計算するとその差が大きくなり,同じ本人であることが認識できにくくなります。また,人物間の動きによる輝度値を単純に計算するとその差が小さく,本人と他人を見分けることが困難になります。そこで,こうした輝度値共起に対する画像間の相違度を柔軟に設計していく計算学習の手法を取り入れ,荷物所持状況変化にも頑健な歩容認証を実現しました。
映像のフレームレートが低い場合にどうするかも,課題の一つです。テレビでもよく流されるコンビニなどの防犯カメラの映像は,1秒間に1コマの1 fpsで飛び飛びの映像になっていることが多く,そこから歩容の動きを見て取るのは困難です。15 fpsに比べ1 fpsでは認識誤りが15倍にもなってしまうという実験結果も得ています。そこで,低フレーム映像に時間超解像を適用し,高フレーム映像を作り出し,歩容認証の性能向上を実現しました。
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大阪大学 産業科学研究所 准教授 槇原 靖
2001年 大阪大学工学部応用理工学科卒業。2002年 同大学大学院工学研究科電子制御機械工学専攻博士前期課程修了。2005年 同専攻博士後期課程修了。博士(工学)。同年同大学産業科学研究所特任助手,2006 年同研究所助手,2007年 同研究所助教,2014年 同研究所准教授となり現在に至る。サービスロボットのための対話的な物体認識,犯罪捜査やディジタルエンターテインメントのための歩行映像解析に関する研究に従事。