画像センシングの最前線
画像センシングによる検査をサポートする反射特性計測の技術動向オムロン(株) 諏訪 正樹
2. 検査対象の反射特性に関する技術解説
検査対象の反射特性を計測することは、対象の材質を定量化することに深く関連する。一般的な画像処理は測光学(Photometry)にもとづいて議論されることが多いのに対し、反射特性は放射分析学(Radiometry)にもとづいて物理的に定義することができる。ただし、どのような前提条件を入れるかによって定義の仕方が異なってくる。Computer Graphics(CG)やComputer Vision(CV)の世界でよく用いられるのが、双方向反射率分布関数(BRDF: Bidirectional Reflectance Distribution Function)である。検査対象表面の位置におけるBRDFは、入射した光の強さ(放射照度:irradiance)と対象物体の表面で反射した光の強さ(放射輝度:radiance)の比として以下のように定義される5。
BRDF計測は、(検査用途では比較的容易に実現可能な)3D計測とは異なり、実用化面でいくつかの技術的困難性が存在する。大きくは以下の3点である。
1) BRDFのパラメータが4自由度あることに起因する膨大な計測時間コスト
2) BRDFをどのスケール(空間分解能)で観測するかによって計測安定性が大きく異なる
3) 計測手法の評価方法が十分に確立されていない
BRDF計測は、これまで数多くの手法・装置が提案されているが、具体的な事例についてはいくつかの文献3-4を参照されたい。これら文献で紹介されているBRDF計測事例の多くは(1)で述べた技術的困難性1)を解決するための工夫を施している。3)の計測精度評価については、CGにおけるレンダリング手法により反射特性を仮想物体上で再現し、人間の見た目で評価する場合が多い。もちろん反射特性の絶対的精度が重要であることはいうまでもないが、検査用途において重要になってくるのが計測安定性(計測ばらつき)である。計測安定性についての評価については例えば文献4などを参照されたい。 <次ページへ続く>
参考文献
- Y. Mukaigawa, K. Sumino, Y. Yagi, “Rapid BRDF Measurement using an Ellipsoidal Mirror and a Projector”, IPSJ Transactions on Computer Vision and Applications, Vol. 1, pp. 21-32, 2009.
- 諏訪正樹,“外観検査・マシンビジョンを支える計測技術,” ViEW2012.
- F. Nicodemus, N.B. of Standards, and U.S., “Geometrical Considerations and Nomenclature for Reflectance,” US Dept. of Commerce, National Bureau of Standards, 1977
- K.J. Dana, B.V. Ginneken, S.K. Nayar and J.J. Koenderink, “Reflectance and Texture of Real World Surfaces,” IEEE Conference on Computer Vision and Pattern Recognition (CVPR), pp.151-157, Jun, 1997.

オムロン(株) 諏訪 正樹
1997年3月 立命館大学 理工学研究科 博士後期課程修了1997年4月 オムロン(株) 入社
2008年4月 オムロン(株) 技術本部コアテクノロジーセンタ 技術専門職
2010年4月 立命館大学 理工学研究科 客員教授 兼任
奈良先端科学技術大学院大学情報科学研究科 客員教授 兼任
2013年4月 九州工業大学 生命工学研究科 客員教授 兼任
現在に至る