画像センシングの最前線

画像センシングによる検査をサポートする反射特性計測の技術動向オムロン(株) 諏訪 正樹

2. 検査対象の反射特性に関する技術解説

 検査対象の反射特性を計測することは、対象の材質を定量化することに深く関連する。一般的な画像処理は測光学(Photometry)にもとづいて議論されることが多いのに対し、反射特性は放射分析学(Radiometry)にもとづいて物理的に定義することができる。ただし、どのような前提条件を入れるかによって定義の仕方が異なってくる。Computer Graphics(CG)やComputer Vision(CV)の世界でよく用いられるのが、双方向反射率分布関数(BRDF: Bidirectional Reflectance Distribution Function)である。検査対象表面の位置におけるBRDFは、入射した光の強さ(放射照度:irradiance)と対象物体の表面で反射した光の強さ(放射輝度:radiance)の比として以下のように定義される520827_1 ただしλは光の波長である。波長は、検査対象の材質をセンシングする重要な手がかりではあるが、紙面の関係上割愛する。一般的に物体表面での反射は、物体表面の法線周りに不変な場合を等方性反射、法線周りに不変ではない場合を異方性反射と呼ぶ。等方性反射のBRDFは3パラメータに単純化することができる。BRDFとよく似た反射特性の表現方法として、双方向テクスチャ関数(BTF: Bidirectional Texture Function)がある。BTFは反射特性をどの大きさのスケールでみればよいのか?という観点でDanaらによって提案されたものであり6、BRDFがミクロな1点での入射/反射のレスポンスを捉えているのに対し、BTFはより大きなスケール(メソスケール)での入射/反射のレスポンスを捉える。BTFとBRDFとの本質的な違いは、物体表面をどのスケールで捉えるかにある。したがってBTFはspatially varyingなBRDFともいえるし、逆に(いささか乱暴ではあるが)BRDFは領域単位が1ピクセルのBTFということもできる。本稿では、反射特性としてのBRDFに着目し、BRDFを具体的に計測する方法について議論する。また1つ重要な点を指摘しておくと、検査対象に照射された光はすべて検査対象表面上で反射するわけではなく、なかには検査対象表層に一旦もぐりこんでか出射されるもの(表面化散乱)や入射した光とは別の性質(偏光や蛍光など)の光を出射するものがある。これらも画像検査において極めて重要ではあるが、紙面の都合上キーワードを挙げるに留めておく。
 BRDF計測は、(検査用途では比較的容易に実現可能な)3D計測とは異なり、実用化面でいくつかの技術的困難性が存在する。大きくは以下の3点である。

  1) BRDFのパラメータが4自由度あることに起因する膨大な計測時間コスト

  2) BRDFをどのスケール(空間分解能)で観測するかによって計測安定性が大きく異なる

  3) 計測手法の評価方法が十分に確立されていない

1)や3)は過去多くの論文で議論されているが、2)はどちらかというと筆者のこれまでの経験にもとづくものである。
 BRDF計測は、これまで数多くの手法・装置が提案されているが、具体的な事例についてはいくつかの文献3-4を参照されたい。これら文献で紹介されているBRDF計測事例の多くは(1)で述べた技術的困難性1)を解決するための工夫を施している。3)の計測精度評価については、CGにおけるレンダリング手法により反射特性を仮想物体上で再現し、人間の見た目で評価する場合が多い。もちろん反射特性の絶対的精度が重要であることはいうまでもないが、検査用途において重要になってくるのが計測安定性(計測ばらつき)である。計測安定性についての評価については例えば文献4などを参照されたい。 <次ページへ続く>

参考文献

  1. Y. Mukaigawa, K. Sumino, Y. Yagi, “Rapid BRDF Measurement using an Ellipsoidal Mirror and a Projector”, IPSJ Transactions on Computer Vision and Applications, Vol. 1, pp. 21-32, 2009.
  2. 諏訪正樹,“外観検査・マシンビジョンを支える計測技術,” ViEW2012.
  3. F. Nicodemus, N.B. of Standards, and U.S., “Geometrical Considerations and Nomenclature for Reflectance,” US Dept. of Commerce, National Bureau of Standards, 1977
  4. K.J. Dana, B.V. Ginneken, S.K. Nayar and J.J. Koenderink, “Reflectance and Texture of Real World Surfaces,” IEEE Conference on Computer Vision and Pattern Recognition (CVPR), pp.151-157, Jun, 1997.

オムロン(株) 諏訪 正樹

1997年3月 立命館大学 理工学研究科 博士後期課程修了
1997年4月 オムロン(株) 入社
2008年4月 オムロン(株) 技術本部コアテクノロジーセンタ 技術専門職
2010年4月 立命館大学 理工学研究科 客員教授 兼任
        奈良先端科学技術大学院大学情報科学研究科 客員教授 兼任
2013年4月 九州工業大学 生命工学研究科 客員教授 兼任
現在に至る

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