セミナーレポート

インフラ構造物点検におけるイメージング技術の活用キヤノン(株) イメージソリューション事業本部 IIS事業推進センター 主幹 穴吹 まほろ

本記事は、国際画像機器展2021にて開催された特別招待講演を記事化したものになります。

イメージング技術を活用したインフラ構造物点検

 橋梁やトンネルなどのコンクリート構造物の点検を,近接目視ではなく,カメラによる撮影画像によって実施するためには,「撮影」「画像処理」「変状検知」の3つの工程が必要になります。「撮影」では,多画素・高精細カメラを自動雲台やドローンに取りつけて,点検対象面を網羅的に複数枚撮影します。このときに,ひび割れの極細の特徴を確実に写し取ることが重要になります。ヘアクラックと呼ばれる幅0.2 mm以下のひび割れも記録しなくてはならず,それらが写るような解像度で撮影することが求められます。
 高解像度での撮影では,一枚一枚はごく限られたエリアしか撮れません。それだけでは,画像に写っているのがどこのひび割れであるかがわかりません。そこで,撮り溜めた画像を繋ぎ合わせ,一枚の高解像度データを生成するための画像処理である「スチッチ合成」を行います。また,斜めに撮られた画像に対して,図面に重なるべく正対するようにゆがみを補正する「あおり補正」も行われます。さらに,複数方向から撮影した画像を使って合成処理をし,隠蔽物を除去する「隠蔽物除去」などの画像処理もあります。
 点検画像が生成されたら,次にAIを活用してひび割れなどの「変状検知」を行っていきます。キヤノンでは,ディープラーニング技術と土木技術者が作成した正解データにより,型枠跡・チョーク・汚れなどをひび割れと誤認知しないAIを,東設コンサルタントとの共同検討を通じて実現しています。AIによるひび割れ幅推定では,土木技術者による判断とほぼ同様の結果を得られました。ひび割れ検知結果例としては,国道高架橋床版に対して,ひび割れ検知率99%を実現しました。この事例では,近接目視で確認された605本のひび割れのうち,601本を抽出し,近接目視で確認できなかったひび割れを含めると検知精度231%を達成しました。
 ひび割れが進行して反対側の面までつながると,雨がそのひび割れ部分を通るようになり,ひび割れ付近に「漏水跡」が出るようになります。水が通るようになると,そこからコンクリートの内部成分が溶け出して白い析出物が出る「エフロレッセンス」が現れたり,水が回り錆びることで内部の鉄筋が膨張し,コンクリートを破壊して鉄筋が表面に現われる「鉄筋露出」が起こったりします。ひび割れに限らず,AIでこうした変状をも検知したいのが,土木業界からイメージング業界への要望としてあります。

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キヤノン(株) イメージソリューション事業本部 IIS事業推進センター 主幹 穴吹 まほろ

1998年東京大学大学院工学系研究科計数工学専攻修士課程修了。同年キヤノン(株)入社。2004年から2006年までMIT Media Lab客員研究員。イメージング技術による新規ソリューションの事業化推進を担当。

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