セミナーレポート
鉄道設備の高精度検査を実現する鉄道総合技術研究所 鵜飼 正人
本記事は、国際画像機器展2015にて開催された特別招待講演を記事化したものになります。
海外,鉄道総研の取り組みと将来展望
海外の鉄道の例ですが,フランス国鉄では,高速軌道電気計測車にカメラを搭載して,撮影画像から画像解析により電車線金具の異常を検出しています。ドイツでは,車載型の架線検測装置により,電車線金具の位置ずれや変形を画像解析により検出しています。鉄道総研の最近の成果について紹介します。我々は,主にトンネルを対象にした画像処理技術の研究開発を長年進めていますが,撮影技術の代表的なものに,ライセンサカメラ方式のトンネルスキャナーがあります。ライセンサカメラを用いてトンネル覆工面の高精細な画像を効率よく撮影します。多様な撮影形態が可能で,例えば軌道計測車にライセンサカメラとLED照明を搭載して撮影したり,軌陸車や簡易トロを用いて様々なバリエーションのトンネルを撮影することができます。また,ビデオカメラで高架橋の内側の高欄や下側の床板を動画で撮影し,画像処理でパノラマ画像を生成する方式も開発しており,目視検査の高精度化,高効率化を実現しています。画像処理技術としては,ひび割れの自動検出があります。一般的な検出処理では,ケーブルなど,ひび割れ以外のノイズも誤抽出されるため,良好な結果が得られませんが,画像修復(インペインティング)という手法を適用し,ノイズ領域をできるだけ除去した上でひび割れを検出するという前処理を開発しています。撮影時の画像解像度は1mm/画素ですが,0.5mm程度のひび割れまで検出可能なサブピクセル処理を適用し,より高精度な目視検査を実現しています。また,閉合ひび割れの自動検出や,画像の重ね合わせによらずにひび割れの進展を計測する,ひび割れの幾何学的特徴に着目した画像処理なども開発しています。
目視検査の置き換え,人間の不得手な領域への展開,車載型の連続計測,専門家の知識を具現化する画像処理アルゴリズムなど,画像処理の活用が期待される未開地はまだ沢山残っています。将来的には,画像処理をはじめとしたICT技術で,人手をかけずに設備情報を取得,蓄積し,それらビッグデータをモニタリング,解析することで,設備の異常を早い段階で検知する予兆診断に結びつけていくことが期待されます。
鉄道総合技術研究所 鵜飼 正人
専門:画像処理,画像認識。1984/04 研究員 鉄道用安全監視システムの研究1990/04 副任研究員 鉄道用状態監視システムの開発。1996/04 主任研究員 トンネル覆工変状検査システムの開発。2000/04 主任研究員 鉄道用異常検知システムの開発。2003/04 主任研究員 画像処理型鉄道用前方監視システムの開発。2014/04 主管研究員 鉄道設備検査用画像処理システムの開発。受賞歴・表彰歴:平成24年度日本鉄道サイバネティクス協議会論文賞 優秀賞「トンネル変状抽出のための高精度画像処理手法の開発」等。