OplusE 2021年11・12月号(第482号)
- 目次
- 特集のポイント
- 広告索引
特集
SDGsのためのセンシング技術(2)~人・モノ・環境の計測と活用~
- ■特集にあたって
- 慶應義塾大学 青木 義満
- ■携帯電話の位置情報を用いたコロナ禍での行動変容の解析
- 東京大学*,マサチューセッツ工科大学** 関本 義秀*,矢部 貴大*, **
- ■宇宙からの環境変動の計測とワンヘルス・ワンワールド
- 東京大学 竹内 渉
- ■OUR Shurijo みんなの首里城デジタル復元プロジェクト-記憶の中の首里城-
- 東京工業大学/デンソーアイティーラボラトリ 川上 玲
- ■持続可能な水産養殖を実現するIoT・AI 技術
- ウミトロン 高橋 康輔
- ■スマートフードチェーンプラットフォームの構築と社会実装
- 慶應義塾大学 神成 淳司
特別企画
- ■画像センシング展2021 特別招待講演
- 産業技術総合研究所 堂前 幸康
連載
- ■【一枚の写真】タンポポの綿毛
- 東京工業大学 松谷 晃宏
- ■【oe 玉手箱のけむり】その16 微小光学の発展
- 伊賀 健一
- ■【私の発言】思い続けていれば,その願いはいつか必ず現実化できる
- 慶應義塾大学 教授 満倉 靖恵
- ■【輿水先生の画像の話-魅力も宿題も-】第24回 画像AI 研究から頂いた諸子百家のメッセージ(7/ SSII(下巻))-研究開発の“うひ山ふみ”への着火剤-The Seventh (last Vol. on SSII): Messages from Hundred Schools of Thought to Image AI novice Researchers- Some Initiators for R&D “UI-YAMAFUMI” People –
- YYCソリューション/中京大学 輿水 大和
- ■【撮像新時代CMOSデジタルイメージング】第5回 技術動向:DPS型CIS,異能異次元への進化
- 名雲技術士事務所 名雲 文男
- ■【レンズ光学の泉】第2章 点像 2.1 点像分布 2.2 対応原理
- 東京工芸大学 渋谷 眞人
- ■【研究室探訪】vol. 24 福井大学 橘研究室
- 福井大学 橘研究室
- ■【国立天文台最前線】第22回 すばる望遠鏡の状態を測定しこれからの望遠鏡運用に活かす
- 荒舩 良孝
- ■【ホビーハウス】光学の古書を楽しむ
- 鏡 惟史
- ■【コンピュータイメージフロンティア】『ミラベルと魔法だらけの家』『ベロゴリア戦記 第1章:異世界の王国と魔法の剣』『ベロゴリア戦記 第2章:劣等勇者と暗黒の魔術師』ほか
- Dr.SPIDER
- ■【ホログラフィ・アートは世界をめぐる】第24回 Art in Holography―International Congress on Art and Holography― ― セントメリーカレッジにて ―
- 石井 勢津子
コラム
■Event Calendar■掲示板
■O plus E News/「光学」予定目次
■PRODUCT REPORT
AIC-VISION(株)
(株)ケーアイテクノロジー
東芝テリー(株)
マシンビジョンライティング(株)
■New Products
■オフサイド
■次号予告
■総目次
表紙写真説明
OUR Shurijoみんなの首里城デジタル復元プロジェクトは,焼失した首里城を一般から募集した写真でデジタル3D復元し,観光コンテンツに役立てようというものである。火災の6日後にデータ収集を開始し,1年間で35の国と地域から約3万7千ファイルが寄せられた。投稿者は約3000人で,その半数が写真にまつわる思い出のテキストを寄せている。図は収集したデータの一部から復元された正殿と,復元に利用されたカメラを表す小さな四角錘である。まるでカメラが首里城の再建を願っているかのように見える。前回以上の復元がなされることを期待したい。(関連記事「OUR Shurijo みんなの首里城デジタル復元プロジェクト-記憶の中の首里城-」東京工業大学/デンソーアイティーラボラトリ 川上 玲:詳細は602ページ)
特集にあたって慶應義塾大学 青木 義満
SDGsのためのセンシング技術(2)~人・モノ・環境の計測と活用~
新型コロナウイルス感染拡大に伴う社会,行動変容の要請,SDGs(持続可能な開発目標)17の達成へ向けて,画像センシングを中心としたセンシング技術,AI技術,IoTの利活用が期待されている。COVID-19への対応およびSDGs達成という強い社会的要請に対して,現在,盛んに研究開発が進められている事例を様々な角度から取り上げ,現状を把握するとともに,今後の発展・可能性を議論していく。OplusE 2021年5・6月号では,その第1弾として,SDGsにも関連し,コロナ禍において重要性が増している遠隔コミュニケーションを支援する技術やシステムについて,様々な事例を取り上げた。今回は,その第2弾として,人・モノ・環境の計測,センシング技術のSDGs活用の事例をピックアップした。
新型コロナウイルスの感染拡大を機に,人の位置情報が社会的な注目を浴びた。東京大学の関本義秀氏,矢部貴大氏には,携帯電話の位置情報を用いたコロナ禍における人々の行動変容の解析について,データ収集から感染拡大抑制のための利活用例,さらにはプライバシー保護などの社会的課題について解説していただいた。位置情報は,コロナ対策だけでなく,自然災害発生時における避難所の混雑把握などにも有用であり,世界的に増加し続ける自然・人的・疫病災害に対抗するための重要なセンシングデータである。プライバシー保護に留意しながらの位置情報の利活用は,持続可能な社会実現に向けてのキーとなりそうだ。
人の行動の把握とともに重要度を増しているのが,大気や水・生態系といった自然環境の状態とそれらの変化を的確に把握するセンシング技術である。感染症を防ぎ,ヒトや家畜,それらを取り巻く生態系の健康を守るための学際的な研究を総合的に発展させるため,“One World, One Health”という概念が生まれ,様々な研究が行われている。現在は,森林生態系をはじめとする世界中のさまざまな環境情報を宇宙から観測する技術開発(リモートセンシング)が進み,地球の健康状態が常に監視されている。東京大学の竹内 渉氏には,リモートセンシングが,特に陸域生態系の計測,人間の健康や経済など社会に及ぼす影響,対策方法などにどう利用されているのか,について,アジア圏で行われた具体的な実例を交えて紹介していただいた。SDGsの中心的課題である環境問題について,センシング技術で貢献しようとする取り組みは非常に興味深い。
次は,歴史的建造物の持続的な維持管理の問題である。まだ皆さんの記憶にも新しいと思うが,2019年10月31日に,琉球王国の歴史と文化の象徴である首里城で火災が発生し,主要構造物が全焼してしまった。東京工業大学/株式会社デンソーアイティーラボラトリの川上 玲氏は,その後すぐに,OUR Shurijo みんなの首里城デジタル復元プロジェクトを立ち上げた。世界中から首里城を撮影した画像やテキスト情報を収集し,多視点からの3次元再構成技術を駆使することで,短期間で首里城の姿がCGとなって蘇った。興味深いのは,大量の写真とともに,その写真に詰まった撮影者の記憶がテキスト情報で収集,共有されていることである。首里城そのものだけでなく,首里城や家族との想い出も含めて復元されているところが,本プロジェクトの奥深いところである。
海の大切な資源にも目を向けたい。水産資源である食用魚介類は,タンパク質供給源として世界中の国々で重要な役割を担ってきた。世界の人口もこの半世紀で2.1倍に増加しており,タンパク質供給源の消費量も飛躍的に増加し,その供給源の確保が世界的に大きな課題となっている。この課題に対しての1つの対応として,生産量の把握や制御により安定した水産養殖が注目されている。しかし,水産養殖の生産現場では,業務量の増加,養殖業従事者の高齢化・減少,および過剰給餌による環境負荷などが問題視され,十分持続可能であるとは言えない状況である。ウミトロン株式会社の高橋康輔氏には,水産養殖の生産現場の課題の中でも特に重要な“給餌”と“成長管理”に焦点を当て,これらの課題に対してIoT・AIの技術をどのように利用しているかを,具体的事例を中心に紹介していただいた。センサー,IoT,画像AI技術を活用することで,生産現場の既存の課題は徐々に解決され始めており,水産養殖の発展・持続可能性向上へ繋がる取り組みとして,今後も注目していきたい。
日本のフードチェーンには,産地偽装問題を撲滅するためのトレーサビリティの確保やトラック運転手不足を踏まえた効率的な物流網の構築など,解決すべき課題が存在している。現在,フードチェーンにおけるデータ連携においては,紙が用いられている場合や,データ項目が産地ごとに異なるなど,様々な問題が存在しており,これらを解決するための枠組みやシステムが強く求められている。慶應義塾大学の神成淳司氏は,これらの課題解決を図るためのデータプラットフォームである,スマートフードチェーンプラットフォーム(SFP)を研究開発されており,本稿ではその概要について解説していただいた。多数の組織が参加するコンソーシムで社会実装へ向けての実用的な検討がなされており,2023年春には,わが国の新たな社会基盤としての構築が予定されている。食品流通を取り巻く様々な課題を解決するための重要な取り組みとして注視していきたい。
以上,人の行動変容,環境計測,建造物復元,水産,食品流通など,様々な分野でSDGsの活動に繋がり,貢献する取り組みを紹介した。SDGsの実現のためには,これらの取り組みを支える関連技術のさらなる進歩はもちろん必須であるが,われわれ一人一人の意識改革や行動変容が最も重要なのかもしれない。
OplusE 2021年11・12月号(第482号)掲載広告はこちら