画像センシングの最前線

三次元計測の原理と光の性質広島市立大学 日浦 慎作

2.1 光の直進性を用いる方法

 「光の直進性を用いる方法」は,対象物体上のある点までの方位に関する情報を,少なくとも2点以上から求めることにより形状を得る手法であり,つまり光を用いた三角測量である.この手法では,方位を観測する2点間の距離(基線長)が離れているほど遠方の物体の測距精度が向上する.
 この手法の代表例はカメラを2台並べたステレオ法で,我々人間の視覚系では両眼視差に対応する.この方法では受動的計測が可能であり,強い太陽光により照らされることのある屋外環境などで特に強みを発揮するほか,2台のカメラで1枚ずつ画像を撮影すれば計測そのものは完了するため,動いているものの計測に向いている.2台のカメラから得られた画像間の対応付けに多くの計算量を要する点が古くから問題視されてきたが,計算機技術の発展によりこの問題は解消されつつある.しかし,例えば完全に平坦で模様もない壁面など,対応付けの手がかりに乏しい領域では形状を得ることができないため,物体の形状を全体にわたって密に計測したい場合には適さない.
 もう1つは能動的ステレオ法と呼ばれる手法で,ステレオ法の2台のカメラのうち一方を,光を射出する装置に置き換えたものである.この場合,一方から光が放たれる方位と,それにより照らされた点を他方から観察したときの方位の関係から対象物体の形状が求められる(図1).
zu1
 この方法は受動型ステレオ法とは異なり,物体表面上を均等かつ密に計測するのに向いており,金型製作やプロダクトデザインなど工業分野で広く用いられている.ただし受動型ステレオ計測とは異なり1枚の画像から物体全体の形状を密に求めることは容易ではないため,より長い計測時間を要するケースが多い.例えば図1のスリット光投影法では,1本のスリットの投影(および1枚の画像の撮影)では,そのスリットが照射された面内の形状しか得ることができないため,スリットを横方向に走査しながら何度も画像を取り込む必要がある.
 能動的ステレオ法は,投影する光のデザインにより分類することができる. 図2のように対象物体に縞状の光を投影すると,カメラからは明るい点が何本目の縞に起因するものか区別しにくくなる.そこで縞の周期や位相を変えながら複数回撮影することで曖昧性をなくし,かつ精度を向上させる手法が数多く提案されており,グレイコードパターン光投影法や位相シフト法などが広く用いられている.
zu2
より複雑なパターン光を設計することで,1枚のパターン光照射のみで形状を求めようとする手法も古くから数多く提案されている.この手法は受動型ステレオ法と同様に動きのある物体の計測に強く,近年では Microsoft 社の Kinect (初代,2010年)に用いられて脚光を浴びた.撮影された画像上の輝度パターンを投影光上のパターンと比べることで距離を求めるため,他の能動型ステレオ法では可能な細かな凹凸の計測は難しく,形を精密に求めるよりは,人体動作の認識など抽象度の高い情報を得るために用いられることが多い. <次ページへ続く>

広島市立大学 日浦 慎作

1972年生.1993年大阪大学基礎工学部制御工学科飛び級中退,1997年同大大学院博士課程短期修了.同年京都大学リサーチアソシエイト,1999年大阪大学大学院基礎工学研究科助手,2003年同助教授.2010年広島市立大学大学院情報科学研究科教授.2008-2009年マサチューセッツ工科大学メディアラボ客員准教授.三次元空間の画像計測と反射現象・表面質感の解析,コンピュテーショナルフォトグラフィ等の研究に従事.1993年電気関係学会関西支部連合大会奨励賞,2000年画像センシングシンポジウム優秀論文賞,2010年情報処理学会山下記念研究賞,2012年MIRU優秀論文賞等受賞.電子情報通信学会,情報処理学会,日本バーチャルリアリティ学会各会員.博士(工学).

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