画像センシングの最前線

手術支援のための医用画像処理中京大学 目加田 慶人

腹腔鏡手術を支援する

 がんを治療する手段として沢山の外科手術が日常的になされています。なかでも腹部に数カ所の穴(ポート)を開けて、ポートから医師の目となるカメラや手となる鉗子を挿入し、腹腔内で手術をおこなう腹腔鏡手術は、腹部全体を開いておこなう開腹手術と異なり、患者への侵襲が低く、社会復帰も早いことから注目されています。一方で腹腔鏡手術は、狭い視野で複数の医師の協働の下におこなわれるため、開腹手術に比べて難易度が高い術式になります。腹腔鏡手術を選択した場合に、手術を安全におこなうための術前準備と術中支援、術後に手術が適切であったかの評価が大切です。

(1)患者固有モデルによる手術支援

 外科的治療においては、重要な血管に傷を付けること無く、切除する部分に関与する血管への血流を止める必要があるため、血管の位置や分岐構造を知ることが大切です。しかしながら、解剖学の教科書に書いてあるそのままの分岐構造を持つ人は稀で、様々に異なるパターンで分岐するのが実情です。
図1 腹部血管の解剖学的名称の自動付与(名古屋大学森健策提供)

図1 腹部血管の解剖学的名称の自動付与(名古屋大学森健策提供)

個人で異なる分岐パターン自動認識し(図1)、内視鏡カメラの視点と同一のカメラパラメータで表示する、内視鏡ナビゲーションシステムシステムに関する開発が進んでいます(図2)。執刀医はナビゲーションシステムの画面を参照することで、臓器等で隠れている壁面下の血管の位置や血管の解剖学的名前を知ることができ、手術の安全な進行に寄与しています。
図2 ナビゲーションシステムを利用した手術の様子

図2 ナビゲーションシステムを利用した手術の様子

また、音声認識などを使い、手術器具で両手が塞がっている執刀医でもナビゲーションシステムを利用し、様々な角度から血管走行状況を確認することができます。

(2)手術映像の解析による事後評価

手術が適切に計画され実施されたかを評価することは大切です。しかしながら、数時間にも及ぶ手術を事後に改めて見返す事は現実的ではなく、映像解析による定量的な評価が望まれています。
図3 映像照合に基づくシーン検索結果

図3 映像照合に基づくシーン検索結果

内視鏡を挿入して手術を開始し、血管をクリップしたり、脂肪を剥離したり、カメラが汚れたら洗浄してからまた体内に挿入するなど、それぞれに特有の映像変化を検出し、ダグ付けするなどが求められています(図3)。<次ページへ続く>

中京大学 目加田 慶人

1996年名古屋大学大学院工学研究科情報工学専攻修了。博士(工学)。同年宇都宮大学助手。2001年名古屋大学助教授。2004年より現在まで中京大学教授。

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