セミナーレポート

注射の悩み,解決します:近赤外蛍光インプラントの開発とその可能性高知大学 佐藤 隆幸

本記事は、国際画像機器展2012にて開催された特別招待講演を記事化したものになります。

近赤外光で血管を可視化,近赤外色素混練のインプラントを開発

 その上で,近赤外光を用いた穿刺血管の可視化について紹介します。一般的なカメラの映像では左前腕伸側の表在性静脈はよく分かりません。それに対して,近赤外光を用いた開発品では静脈を可視化することができます。治療で特に重要なのは動脈ですが,左手首屈側の動脈は一般的なカメラの映像ではよく見えません。それに対して,開発品による映像では手首のところにある尺骨動脈と橈骨(とうこつ)動脈という2本の動脈が見えます(図1)
図1 左手首屈側の動脈

図1 左手首屈側の動脈

 次に近赤外蛍光インプラントの開発です。そのためには,蛍光を発する薬剤を作り,それを300度近くの温度で樹脂に混練して,1年以上蛍光を発するようなインプラントを作らなければなりません。そのために,新規に開発した近赤外蛍光色素を練り込んで,血管内留置針を作りました。開発した近赤外蛍光色素は抗がん剤を投与するために患者の身体に埋め込むCVポートにも応用できます。CVポートにはセプタムという膜状のシリコンゴムの部分があり,ここに専用の針を刺して薬剤を投与します。CVポートは皮膚の下に埋め込まれているため,セプタムは見えません。医療従事者は場所を想像しながら針を刺すのですが,失敗すると抗がん剤が流れ出し,皮膚の壊死などの事故になってしまいます。そこで,セプタム以外のポート本体部分に近赤外蛍光色素を混練したCVポートを作り,皮膚の上から,セプタムの位置・形状を可視化できるようにします。そうすれば,確実に針が刺せるようになると思われます。
図2 手首皮膚表面に置かれた近赤外蛍光カテーテル

図2 手首皮膚表面に置かれた近赤外蛍光カテーテル

 実際に,マウスの腹腔内に植え込まれたインプラントで実験をしていますが,励起光を当てると光ることが確認できました。また,近赤外蛍光カテーテルを手首皮膚表面に置いて,励起光を当てると発光します(図2)。最近では,腹腔鏡を使って腎臓や尿管などのがんを手術することが増えていますが,近赤外蛍光カテーテルを使えば,尿管の位置を確実に可視化することが可能になるため,尿管を傷つけずに手術することが可能になると思われます。
 このように,近赤外蛍光インプラントを使うことで,皮下の血管と皮下を進む針の両方を可視化して,安全で安心な血管穿刺を実現し,医療従事者の悩みであった血管穿刺の失敗をなくすことができると考えています。

高知大学 佐藤 隆幸

1985年 高知医科大学医学部 卒業
東京女子医科大学循環器内科、国立循環器病センター研究所を経て
2000年 高知大学医学部 循環制御学 教授
専門:医工学、循環器学

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