セミナーレポート

国際画像セミナー特別招待講演 「高速画像処理とその応用」を聞いて東京大学 石川 正俊, 他

本記事は、国際画像機器展2010にて開催された【特別企画】 最新画像処理 鼎談を記事化したものになります。

市場があれば開発する日本,市場がないから開発する米国

北川:最近は研究テーマを会社で提案するときに,必ず経営層から「マーケットはどうだ?」と聞かれます。これはある意味しょうがないと思いますが,そのウェイトがどんどん大きくなっていることや,若手技術者が振り回されて,研究よりも時間を割かざるを得なくなっている状況が心配です。これはある意味,企業の余裕のなさのあらわれなのかもしれません。

石川:「マーケットがないから」という経営層の拒絶反応は,論理を持って打ち破らなければなりません。例えば,10件の新規分野を開拓しようとする場合,9件がつぶれても1件が10倍のゲインを得られれば良いわけです。でも,今の日本の企業はこうした考え方ができません。1件の分野でマーケットがあり,かつそこで利益が出なければ,事業にゴーが出せないのです。これでは,コンサーバティブな事業しかできません。うまく行っても投資額の2~3倍しかリターンが得られません。
 米国ではベンチャーキャピタルがそのリスクヘッジを担っています。韓国は政府が後押しした財閥がそれを担っている。台湾,中国では政府そのものが負担しています。

猿田:今話題の「仕分け」の逆があってもいいと思いますね。「何を削るべきか」ではなくて「何をやるべきか」を選ぶような。

石川:一応そうした施策も政府は実施しています。しかし,セレクションのロジックが相変わらず「マーケットが無いものにカネは出さない」。米国は「既存マーケットがあるならやめましょう」,日本は「既存マーケットがあるならやりましょう」。この違いは大変大きいと感じます。
 独創性には必ずリスクが伴います。ただし,必ず何割かの確率で当たります。当たった時のゲインが残りをコンペンセートできればいいだけの話です。全体像を見てそうした判断をしなければなりません。しかし,それをやれる人が今の日本にはいないのです。

北川:技術に対するモチベーションがどんどんシュリンクしてしまって,若者が夢を感じられなくなってしまっていますね。

石川:そうです。
 今の日本では,例えばうちの研究成果がマスコミで発表されると,最初に電話がかかってくるのが韓国の大手電機メーカーからです。日本のメーカーから連絡が来るのはその1か月後です。
 そうした韓国のメーカーでは,社内に膨大なリスクマネーを保有していると聞きます。日本の半導体事業が韓国に負けた理由は技術ではありません。リスクマネーをどれだけ持っているかということです。政府が財閥系企業を支援し,それを担保に韓国メーカーはどんどん投資しました。そして,そのうちいくつかの事業が成功しています。そうなると,またリソースが増えるという好循環を作り出しています。
 一方の日本企業はリスクが大きい事業には極力投資をしません。安全な事業にしか手を付けないのです。そうなると当然ゲインが足らなくなります。1回でも失敗すると残りをコンペンセートできません。
 そのように失敗した者は,日本では痛烈に非難されます。しかし,私は「正当な失敗」は,むしろどんどんやらなければならないと考えています。「正当な失敗」とは,理論と手法は誰が考えてもうまくいくがマーケットが分からない場合に起こる失敗のことです。そうして失敗した人たちは褒めてあげなさい。「もう1度やりなさい」と言ってあげてください。10回やって1回でも成功すればその人に拍手を送りましょう。
 1つみなさんに質問したいのですが,誰でも使っている手法と材料で,誰でも分かっているマーケットにおいて,ゲインが1.1~1.2あると思われるところに投資したら,結果として1.1になった。これは成功といえますか?
 私は大失敗だと思っています。

北川:会社で提案されているテーマを見ていると「改善」や「改良」ばかり。「革新」といえるものはほとんどありません。短期的なプロフィットのみ追求するようなテーマばかりになりがちです。

石川:そういう企画であれば,他国の企業でも同じことを考えられます。特にアジア圏の企業は安い人件費と高いモチベーションという武器を持っているので,同じ土俵の上ならば日本が負けるのは目に見えています。だから,他のアジア圏の国ではできないことをやらなければなりません。それこそが「マーケットのないもの」なのです。

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東京大学 石川 正俊, 他

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