セミナーレポート

国際画像セミナー特別招待講演 「高速画像処理とその応用」を聞いて東京大学 石川 正俊, 他

本記事は、国際画像機器展2010にて開催された【特別企画】 最新画像処理 鼎談を記事化したものになります。

高速画像処理は空白地帯にあった宝物

北川:研究テーマとして新しいものを次々と出されていますが,発案は先生ですか,それとも学生からですか?

石川:両方です。
 うちの研究室の研究スタイルは今までの大学のものとは少し違います。今までは「分析を基本として人類共通の問題をみんなで解きましょう」というスタイルですね。与えられた問題を説いて真理を探究する方法。うちはそれもやっていますが,重心は「何にもないところにこんなものができたらいいね」というところに置いています。
 そんなとき,「高速画像処理」はすばらしい道具になります。ポカッと空いていた誰かが忘れていった空白地帯。そこにものすごい宝物がありました。それはターゲットとなるアプリケーションではなくすばらしい道具だったのです。
 新しい道具は新しい建物を建てるのに使います。新しい建物とは,あるときはロボット,あるときは顕微鏡(注3)石川研究室で開発した遊泳する微生物や運動性細胞などの動く対象を追跡しながら,長時間の観察を可能にした光学顕微鏡に付属させるシステムの研究を指す。,あるときはブックフリッピングスキャニング(注4)石川研究室が開発した本をスキャンする装置。「ブックフリッピングスキャニング」と呼ぶ。250ページの本が90秒でスキャンできる。だったりします。共通なのは土台となる高速画像処理です。われわれはそれを展開していくだけです。
 うちの研究室には「みんなで変なことを考えましょう」という文化があります(笑)。学生や研究者,私もみな好き勝手にやっています。私のアイディアでも時として却下されることがあります。半分以上のアイディアは学生から出たものです。私も確実に3割は提案していますが(笑)。

北川:研究テーマは学生に考えさせるのですか?

石川:卒論はちょっと難しいですね。修士論文以上は「自分で考えろ」と言っています。もし自分で考えられない場合は,私の方で用意します。

北川:研究ではものづくりだけでは済まない部分もありますよね。例えばモデルを作るところ。先生の研究室では,どういうところがそういう理論的なモデルを作る部分になるのですか? 対象のモデル化ですか? それとも制御系のモデルでしょうか?

石川:うちの研究室がほかの研究室と少し違うのはアプリケーションオリエンティッドなところです。まずは,アプリケーションとして価値があるもの,社会が受け取りやすいものを選択します。そしてターゲットを決めたら,それに対して何が必要かを考えます。そこに理論的考察が必要になります。
 こんな例があります。
 「レンズの焦点が高速で変わったらいいよね」という話をしていたところ,ある研究員が「液体で行けるかもしれない」と言い出しました。そこで私は「そんなのできない」と言ってしまった。実はこれが私の一生のトラウマになっています(笑)。「だって液体の現象だから,1/1000秒なんかで動くはずない」と考えたのです。しかし,あとから考えたらそれはほぼ圧力伝搬の現象なんですね。液体自体はほとんど動いてません。だから1/1000秒で動作する。
 アイディアからスペック通りの能力が出せるかどうかを考えるのには理論が必要です。これは,アナリシスを主体とした古いタイプの研究です。ただし,自分で考えた問題を解く点が違います。本研究では流体現象や温度補償,液体の表面の球面度(レンズとしての分解能に関係)などを押さえるために理論的考察を行っていました。その結果,この研究論文は高く評価されました。
 よく,ハンドにカメラを付けてモーターで動かすだけで壊さずに生卵が取れる(注5)石川研究室が開発した落ちてくる生卵をキャッチするロボットハンド。と思っている人がいますが,それは違います。こんな動作でも理論的な解析が必要です。アーキテクチャレベルのデザインルールが必要なのです。いわゆる制御論ですね。今の制御論は,重箱の隅をつつくようにパラメータの決定法を追求しますが,うちはやりません。アプリケーションがあったら,そこにどういったアーキテクチャが最適かという,もうちょっと上流の理論を追求します。「画像」と「力」でやるべきなのか,「画像」のみでやるべきなのか,そういうことを考察して,一般論として最適化する課題を与えて解きます。 「直交分解(注6)ロボットのアーキテクチャを設計する際に利用するタスク分解手法の一つ。旧来の方法はセンサーからアクチュエータまで処理を直列に進める「直列分解」だったが,これに対してできる限り並列で処理を進める「並列分解」の手法が提案された。石川研究室では,並列分解の十分条件だが,タスク間の直交性を利用する「直交分解」という手法を提案した。」という手法は,バッティングロボット(注7)石川研究室で開発した投げたボールを打つロボット。高速画像処理を用いてストライクならほぼ100%で打ち返すことが可能である。後述のスローイングロボットと対で使い,高速画像処理の有用性を分かりやすく説明している。の開発で考案されたものです。また,スローイングロボットの開発では,複数のアクチュエータが時間軸上でバラバラに動くと力を発揮できないことが分かりました。すべてが同期していないとダメなのです。ただし,普通の同期ではいけません。時間的にズレながら同期する必要があります。そのために,固有関数の同期問題としてそれを解きました。
 発想はアプリケーションオリエンティッドです。しかし,現実的な限界付近でそれを動かそうとしたら,きちんと理論を抑えておかないとダメです。ただし,それはあくまであるターゲットを決めた狭い分野の理論なので,それだけでは面白くない。できるだけ汎用化しようと考えると,結果的に道具が増えることになります。その繰り返しで道具袋がどんどん「ドラえもんのポケット」のようになっています(笑)。

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東京大学 石川 正俊, 他

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