セミナーレポート

高速画像処理、実現への道東京大学 石川 正俊

本記事は、国際画像機器展2010にて開催された特別招待講演 プレインタビューを記事化したものになります。

現在の研究テーマをお聞かせください

 いろいろやっていますが、「高速の画像処理」が大きなテーマです。今までの画像処理の処理速度は遅すぎたと思っています。研究を始めてみると、1/30秒より速い画像処理の研究をしている人がほとんどいないことに気づきました。ぽっかり穴が空いた状態でした。誰もが、画像処理には「きれいに撮られた画(え)が必要」と思っていたようです。しかし、その画を使ってフィードバックをかけることを考えれば、きれいな画は必ずしも必要ありません。バッティングロボットでも、画は撮って処理してしまえば捨ててしまいます。きれいであるよりも正確さが必要なのです。画質と正確さに相関はありますが、決して1対1ではありません。
 われわれは1/1,000秒で撮るだけではなく、1/1,000秒で処理まで行う系を作ることにこだわっています。技術基盤を作り、ぽっかり空いた画像処理の穴を埋め始めたら、ある時はロボット、ある時は医療、そしてヒューマンインターフェース、メディア、検査、セキュリティと、いたるところに空き地が見えてきたのです。  学生には、「何でもいいから速くて面白いものを見つけて来い。うちの研究室には、誰も使っていない良い道具があるのだから、これを使って切り崩せば世界一になれる」と発破をかけてきました。討ち死にするケースもありますが、必ず何人かは良い成果を持ち帰ってきます。自分たちで作った道具で新しい成果を切り拓けるのですから、非常に面白いですよ。
 最近の「大当たり」は、本をスキャンするマシンです。250ページの本が90秒で読み取れます。いずれ10秒でも読み取りは可能になるでしょう。現在の問題はページをめくる機械にあり、画像の読み取りに限界は見えていません。「1/1,000秒で三次元形状情報を取れるのだから、それを活かしたアイデアはないか」と言っていたら、ある研究員が「本のスキャンができるんじゃないですか」と1ヶ月でシステム化したものです。私たちはこういう研究を「できちゃった研究」と呼んでいます。一般には、1/1,000秒で三次元形状の計測ができると考えられていなかったので、スキャナの専門家からは反論が寄せられました。でも、できちゃうんですね(笑)。
 1/1,000秒であれば予測を必要としません。時間的に欠落のない画像を処理だけです。バッティングロボットも1/30秒で計測・処理すると、予測を必要とします。情報の欠落があるので足りないものを補おうとして「統計的処理を入れよう、信号処理を入れよう」と掘り下げてしまうわけです。しかし、1/1,000秒の処理では、ボールの軌跡の1cmごとにデータが得られますから、当たらないはずがありません。ロボット研究者から批判をいただくようなこともありましたが、私の研究室では「私の目に見えるスピードで動いているロボットは遅い」と言っています。
 この好例として、子供が遊びに使うBB弾という直径6mm程度の小さなプラスチックの玉がありますが、学生が机の上に転がしたこの玉をロボットにつまませて喜んでいたところ、私が「目に見えるものはダメ」と言ったことがあります。しばらくすると、空中に投げ上げたBB弾をロボットがつまんでいました。
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東京大学 石川 正俊

1979年東京大学大学院工学系研究科計数工学専門課程修士修了。同年通商産業省工業技術院製品科学研究所入所。1989年東京大学工学部計数工学科助教授,1999年同大学工学系研究科計数工学専攻教授,2002年同大学総長特任補佐,2004年同大学副学長,2005年同大学理事・副学長,同年同大学情報理工学系研究科創造情報学専攻教授。現在に至る。工学博士。日本ロボット学会,計測自動制御学会,応用物理学会,日本機械学会等から,論文賞,技術賞,業績賞など多数受賞。計測自動制御学会および日本ロボット学会フェロー。
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