セミナーレポート

本人が気付かない精神疲労をさりげなく見つけて教えてくれる,家族のような見まもりシステムを目指して東京理科大学 工学部 電気工学科 教授 阪田 治

本記事は、画像センシング展2021にて開催された特別招待講演を記事化したものになります。

行動動画像解析による人間の精神疲労評価

 状況としては,火星基地や南極など隔離された環境で生活をするわけですが,日常の生活スタイルは崩さずに,その中でどのような情報を得ることができるかを考えます。自宅でも,リビングや書斎などいろいろな場所があります。それらのどこにどんなセンサーを設置できるかを考えなくてはいけません。また,職場が近接している場合には職場にもセンサーを設置します。
 想定される生体情報の種類としては,心電や心音,心拍変動,脈拍,呼吸,体温,発熱,発汗,脳波,眼球運動,筋電,筋出力などいろいろあります。これらは人間の体から直接取れる生体指標です。それに対して,人間のアウトプットを生体情報として扱うことも可能です。例えば,声のトーンなどにその人の精神状態が反映されることが,研究的にわかっています。全身の動き,特に,歩行動画を分析することで状態を検出できます。顔の表情からの分析も研究が進んでいます。そのほかにも,どんなことを言ったかという言語表現の分析や,ストレス蓄積が起こると指先の細かい作業が苦手になることから,画像解析により分析することもあります。また,暗算をはじめ,何か思い出すといった軽い精神作業が苦手になります。これらのように,毎日やっている日常の動作であるルーチンパターンがうまくいかなくなる,変化するということがあります。
 具体的に,どのような研究開発をしているかを紹介します。まず,全身行動映像による本人の精神疲労の検出をするための歩行の解析です。毎日決まって通行するところとして,研究では仕事が終わって自宅に帰ってきたときを想定して撮影しました。対象とする動作は正面歩行です。通常のカメラで撮影した動画像から,いわゆる棒人間のような骨格座標データを取ります。家族なら,歩き方やリズムに異変があると,元気がないと感じることがあります。それを機械に代替させるのです。ポイントは,同じ歩行動作の中で違いを見極めることにあります。
 歩行動作のうち,頭と肩の角度を見ます。「うつむく」,「肩が丸まる」,「足が上がりにくい」などに注目し,特徴を抽出します。特徴量としては,棒人間の各棒の角度と距離を見ていきます。なぜそれらを選んだかというと,疲労時には首が下を向く傾向が強くなること,上半身は背中が丸まったり,前傾姿勢になったりが多くなること,下半身は足取りが重くなる傾向にあるからです。防犯カメラや室内ならペットモニターで撮影することで情報を得られます。これらから得た特徴量を使って,機械学習で分類します。
 また,頭や肩の間の角度や距離が時間的にどう変化するかを見るのも1つの方法です。さらに,角度や距離の変化を集合としてとらえ,その集合特徴量の分布を,今日,昨日,もしくは1か月前とどう違うかも調べました。それらはすべて8割以上の精度で疲労の違いがあることがわかりました。

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東京理科大学 工学部 電気工学科 教授 阪田 治

2001年筑波大学大学院工学研究科修了。博士(工学)。茨城県立医療大学嘱託助手,(独)食品総合研究所特別研究員,山梨大学 大学院 医学工学総合研究部助教・准教授を経て,2016年東京理科大学 工学部 電気工学科准教授,2021年同教授。多次元生体信号解析および生体画像解析の理論研究,およびこれら技術の医療工学や農業・食品工学への応用に関する研究に従事。

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