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質問したりアクティブに学べば,その後の信用が得られる宇都宮大学 ネイザン・ヘーガン

スナップショット分光イメージングカメラの開発と,レンズ設計の理論研究を進める

聞き手:宇都宮大学では,どのような研究をしているのですか。

ヘーガン:日本に来てからは,大谷幸利先生と一緒に,共同研究をしています。大谷先生の専門は,3次元形状の測定や光の偏光ですから,できるだけ先生の研究と合わせたらスムーズについていけるのではないかと思い,研究をしていました。私の大学院のときの研究テーマの1つは偏光でした。ただし,ポスドクのときや会社で仕事していたときは偏光の勉強をしていませんでしたから,偏光の研究をまたやるのは楽しみで,それは良かったと思います。
 やりたい研究テーマは偏光のほかにもあり,時間がなくてずっと後回しになっていました。それは,スナップショット分光イメージングカメラの開発です。今,新しいバージョンの設計をしていて,できれば来年までに設計を終わらせて,組み立てて使えるようにしたいと思っています。スナップショット分光イメージングカメラの研究をしている人はいますが,ほとんどの人はハードウェアを簡単にして,アルゴリズムで性能を引き出そうとしています。私はハードウェアにもこだわって,ハードウェアとアルゴリズムの両方で性能を高めようとしています。そのほうが良いものができますし,今までできなかったことが可能になります。しかし,すべてカスタムメイドになるため,設計がしにくく,つくりにくいという面があります。ですから,やっている人はほとんどいません。
 どうしてスナップショットが役に立つのですかとよく聞かれるのですが,説明すると簡単すぎてあり得ないと言われます。私は,分光イメージングで,スペクトルとイメージを同時に撮ろうとしています。その場合,普通はスキャニングで行います。普通のカメラの前にフィルターをかけてその波長のイメージを撮ります。そして,また新しいフィルターを入れて撮ります。そのように,一つひとつ撮るという簡単なやり方です。しかし,100の分光分解能を得るために,1つフィルターを入れたら1つの波長は通しますが,あとの99の波長を捨てなければならなくなります。そのために,今までは暗すぎてうまく応用ができなかったのです。先にお話したガスイメージングもこのような私のやり方で応用できるようになりました。
 それから,理論系の研究も進めたいと思っています。10年くらい前に論文を書いたことがあるのですが,そのときはまだ一般的には理解されていない状態だったと思います。それはレンズ設計法です。今まではコンピュータを使って一つひとつ計算してどれくらいきれいなイメージになるかを調べていましたが,それを計算式で行うもので,私は今までみんながやっていたのとは違う計算方法を考えています。式で計算すると,イメージ収差や,どのようにレンズ同士のパラメーターを変えたらきれいなイメージになるのかがわかります。このような理論研究の分野にも挑戦していきたいと思っています。

レンズ設計など光学系の人材を育てたい

聞き手:日本の大学教育について,良いと感じられるところ,改善したらいいと感じられるところはありますか。

ヘーガン:日本に来てわかったのですが,私はほかの日本人の教授の道とは全然違うルートできたので,日本のシステムに合わないと感じました。私は10年以上会社で働いていた経験があるぶん,周りの助教と比べると年齢がかなり上です。日本では,予算の申請書を出すときにも,例えば45歳までといった年齢制限があります。私が宇都宮大学に来たのはちょうど45歳でしたから全部年齢制限に引っかかってしまいダメでした。
 それから,科研費などの申請書は英語で出すことが認められていますが,他のものは日本語で書いて出す必要があります。私は日本に来たばかりの頃はまだあまり日本語が書けませんでしたから大変でした。それでもその後O plus Eに日本語で論文を書かせてもらうなど,申請書も日本語で書けるようになりました。  日本に来るときに,日本で働くなら絶対日本語で働くようにしようと思いました。西洋人は日本に来ると,日本人に英語を話してもらったりしますが,それは失礼だと思います。自分はそういうふうにはなりたくなかったのです。
 それでも,大学の総務などから来るeメールは,すごく硬い文章で何を言っているのかがわからないことがあります。妻に見せてもわからないと言われるくらいです。そんなときはあえて返事を出さず待つようにしています。そうすると,返事がどうしても必要な場合は何をして欲しいかはっきり書かれたメールがまた来ます。それを読むとやっと意味がわかり,返事をすることができます。

聞き手:宇都宮大学では,2021年度より博士(光工学)が取得できるようになりましたが,それについてどう思われますか。

ヘーガン:日本には光学系の有名な会社は多いのですが,大学にはそういう専攻がありません。光学を教えるのも,キヤノンなどから客員教授として講義に来てくれたりしていますが,レンズ設計を経験している人は私しかいないというのが不思議でした。なので,光学系の人を集めてオプティクス教育センターをつくり,学位が取得できるようになったのは良いことだと思います。現在はキヤノンやニコンなど光学系の会社の中でも,教育の予算が削られ,レンズ設計の人間は即戦力で働ける外人に代わってきているという話を聞いたりしますので,そういったことがわかる学生を育てていけたらと思っています。

アリゾナ州のチリカフア山脈にて。
砂漠の生活では,つばの広い帽子がいかに重要であるかを学びました。


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ネイザン・ヘーガン

ネイザン・ヘーガン(ねいざん・へーがん)

2007年 アリゾナ大学大学院博士課程修了 2007~ 2009年 デューク大学 研究員 2009~2011年 ライス大学 研究員 2011~2016年 Rebellion Photonics社 主任研究員 2016年~ 宇都宮大学オプティクス教育研究センター准教授
●研究分野
分光イメージング,光工学,収差理論,計算機センシング,偏光
●主な活動・受賞歴等
2004年 Arthur G. DeBell記念奨学金
2004年 Christopher Karl Schultz記念奨学金
2005年 アリゾナ大学イメージングフェローシップ賞
2006年 SPIE光科学・光工学教育奨学金
2012年 Prismの光系開発賞ファイナリスト(Rebellion Photonics社のチームメンバー)
2012年 R&D100開発賞(Rebellion Photonics社のチームメンバー)
2012年 Microscopy Todayイノベーション賞(Rebellion Photonics社のチームメンバー)
2019年 Academic Melting Potフェローシップ賞,King Mongkut工科大学,Ladkrabang(タイ王国)

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