技術はもっているだけでは価値はなく,競争力にしっかり結びつけないといけないミノル国際特許事務所 安彦 元
技術を強くしていくことが日本を支えていくことにつながる
聞き手:最後に,工学を学ぶ学生や若手技術者に向けて,メッセージをお願いいたします。安彦:私も理系でしたが,理系で私のような道に進む人もいるかもしれませんが,工学を学ぶ大半の学生はやはり技術開発の場面で活躍される方が多いと思います。私の仕事は,技術者や発明者から発明をお聞きして,それを特許にしていくものです。今までいろいろな発明者の方と出会いましたし,いろいろな発明ともまた出会ってきました。これまで,3000件以上の特許出願代理をさせていただきましたが,その中で思うのは,やはり発明者の方はすごいということです。特許を出すということは新規性がなくてはいけません。新規性とは,これまで世界にない唯一の新しいことを考えたということです。そこにはクリエイティビティがなくてはいけませんし,1つでもそうしたことが生み出せるのは,その分野の権威でもあるわけです。ですから,発明者の皆様に対して,私はいつも権威のある方から教えてもらうというスタンスで接してきました。ある意味,リスペクトしながらお話を聞かせていただき,逆に事業に資する特許にするためにはどうしたら一番いい形になるかについて私の経験に基づいてサポートし,尽力させていただいてきました。
日本は何と言っても技術立国です。技術の強みがあり,イノベーションが起きて,高度成長期以来の今の繁栄があるのです。技術立国として,今後の日本の研究開発を支えていく皆さんは,日本全体にとって宝です。日本の将来という面でも期待度は高いですし,本当に頑張っていただきたいと思います。よく日本ではイノベーションが起きないと言われます。確かに,iPhoneをはじめとして破壊的イノベーション(Disruptive Innovation)を起こす企業はGAFA(Google,Apple,Facebook,Amazon)に代表されるように,みんな外国企業です。しかし,イノベーションというのは,破壊的イノベーションだけでなく,ちょっとした技術開発や小さな改善を積み重ねていくインクリメンタル・イノベーションも,1つのイノベーションにつながるものなのです。そういったことを続けることで,技術を強くすることが,技術立国としての日本を支えていくことになります。
これからの日本の国全体,国家としても,日本のイノベーション力は考えていかなければならない重要なテーマです。そこで期待されているのが,若手の技術者であり,今,理学や工学を学んでいる学生の皆さんです。やはり若い人の頑張りがなければ日本はイノベーションが起きず終わってしまうかもしれません。私自身,イノベーションを側面からアシストする立場でこのようなことを言うのはたいへん恐縮ではありますが,これから日本の技術開発を背負っていかれる若手の皆さんにはぜひ頑張って欲しいですし,絶大な期待をしております。
著書『競争力が持続する戦略』
安彦 元(あびこ・げん)
1997年 東京工業大学大学院総合理工学研究科(材料科学)卒業2001年 弁理士登録
2008年 博士(技術経営)・東京工業大学
2012年 ミノル国際特許事務所所長
2018年 イノベーションIP・コンサルティング(株)設立
●専門分野
知的財産法,イノベーションマネジメント
●主な活動・受賞歴等
平成22年度第3回TEPIA会長賞
●著書
『知的財産イノベーション研究の展望』,白桃書房(2014)
『人工知能 特許分析 2019』,日経BP(2019)
『競争力が持続する戦略』,日経BP(2020)