【重要】技術情報誌『O plus E』休刊のお知らせ

制約のないものはない。 制約を楽しむ気持ちを持ち,最適化を求め過ぎず,スピードを大切にして欲しい東京大学大学院 廣瀬 通孝

知らないことは偉大で,知らないからできることがある

聞き手:これから工学分野において活躍を目指す若手研究者・技術者,学生に向けて,意識の持ち方や大事だと思われることなど,メッセージをお願いします。

廣瀬:最近,漠然と思っているのは,「高速化時代」と言われているのに,むしろ研究開発のスピードは遅くなっているのではないかと。マスコミでも,技術の進歩は速いという書き方をしますが,本当に速いのかと一度検証してみたほうがいいように思います。
 2020年の東京オリンピックで,東京の鉄道網はどれだけ変わるかというと,ほとんど変わりません。田町と品川間に新駅ができるくらいです。昔なら,羽田空港から少なくとも東京駅直結くらいの線路をつくっているでしょう。ちなみに,前の東京オリンピック開会直前の1964年10月1日に開業した東海道新幹線は,わずか5年でできているのです。今まで最高110 km/hで走っていた特急列車が,いきなり200 km/hを超えて走るようになったのです。
 わからないことをやるときには,多少の無茶も必要になります。それに対して,われわれは寛容でなければいけません。何事もこわがっていてはできないのです。
 ある会社の社長さんで,自分で会社を大きくした人がいました。技術屋なのですが,あるとき,水の中で自社のスピーカーの音が聞こえるかと話題になりました。技術関係者の人たちが,ああでもない,こうでもないと,会議をしていたところ,その社長は途中で切れてしまって,「バケツに水を入れて,そこにスピーカーを沈めて聞いてみろ!」と言って帰ってしまったそうです。まさに示唆的な話で,今はそういうことが多いのではないでしょうか。
 「メッセージをお願いします」と言われると,私は「知らないことは偉大である」とよく答えています。具体的な答えを出さないと何も進みませんが,知り過ぎているとやれないことがあります。知らないからできることがあります。無限の可能性の中から,最適化を求め過ぎると何もできなくなってしまいます。今の製造業の人たちは,あまりに最適なものをつくろうとするから,いつまで経っても完成品ができないのかもしれません。予算がないとか,みんなが理解してくれないと不平を言う人がいます。制約があることに不平を言っても仕方がないわけです。逆に,制約があるところから思考は始まるのです。仮に不平を言っている人に,制約を全部取っ払うから良いものをつくってくれと言ってもつくれないのではないでしょうか。むしろ,制約を楽しむことも必要です。制約のないものはないのですから,制約を楽しむ気持ちを持つことです。そして,あまりに最適化を求め過ぎず,なおかつスピードを持って進める時間感覚も大切にして欲しいと思います。

廣瀬 通孝

廣瀬 通孝(ひろせ・みちたか)

1977年 東京大学工学部産業機械工学科卒業 1979年 同大学大学院修士課程修了 1982年 同大学大学院博士課程修了 同年 東京大学工学部産業機械工学科専任講師 1983年 同大学助教授 1999年 同大学大学院工学系研究科機械情報工学専攻教授 同年 同大学先端科学技術研究センター教授 2006年 同大学大学院情報理工学系研究科知能機械情報学専攻教授,現在に至る。
●研究分野
システム工学,ヒューマンインターフェイス,バーチャルリアリティ
●主な活動・受賞歴等
日本バーチャルリアリティ学会特別顧問 東京テクノフォーラムゴールドメダル賞,電気通信普及財団賞などを授賞。主な著書は,『技術はどこまで人間に近づくか』(PHP研究所),『バーチャル・リアリティー』(産業図書),『バーチャルリアリティー』(オーム社),『電脳都市の誕生』(PHP研究所)など。

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