【重要】技術情報誌『O plus E』休刊のお知らせ

何でもNoと言うNaySayerに負けるな その否定意見を論破できたら成功できる公立諏訪東京理科大学 小林 誠司

捕獲の効率化や猟師の負荷軽減につなげるシカのわな通報システム

聞き手:スワリカブランドでは,登山者の遭難救助以外にも,さまざまな取り組みをされているとお聞きしました。

小林:今回のLPWA技術では,低消費電力で長距離通信が可能となるので,さまざまな応用ができると考えています。地元の企業と地域の課題解決につながるいろいろな取り組みを始めています。
 例えば,鹿などの有害獣を捕獲するためのわなの通報システムや,温度・湿度などの農業用センサーとしての応用も考えています。

ブルーレイの限界の壁に挑む

聞き手:研究・開発プロセスにおいて,求められた成果が出ないなどの理由で自信を喪失し,試行錯誤して苦悩された苦いご経験がありましたら,そのエピソードをお聞かせください。

小林:私はDVDやブルーレイディスクに代表される光ディスクの研究開発に携わってきました。光ディスクに技術的な壁が来ると言われていたのは,もう20年も前のことです。ブルーレイディスクでは,大容量記録を実現するため,開口数0.85のレンズを使用し,光の密度を高めています。開口数が1になるとレンズがディスクに接触してしまうため,0.85で限界に達したと言われていました。また,ブルーレイディスクでは405 nmという短波長の青紫色レーザーを使い,ビームスポットの微小化を実現しています。しかし,これ以上短くすると光がディスクのプラスチックを通過しなくなるため,そこにも限界がありました。
 その限界を必死で抜け出そうと,さまざまな挑戦を試みました。ホログラムや非線形記録といった技術が流行ったことがあり,必死で取り組んだのですが,私の挑戦は失敗しました。そのときに考えたのが,中学時代からやりたかった無線の世界でした。
 光ディスクに関しては,長くオランダのフィリップスと共同で研究開発を進めていました。当時フィリップスの研究所にはヨーロッパの優秀なエンジニアが集まっていました。同社の方針だと聞いたことがあるのですが,メンバーは4~5年経つと違う分野に異動し,そのたびに新しい人が加わるのです。その人間は光ディスクの専門家ではありません。私たちは20年以上光ディスクに携わっているわけですから,その都度ミーティングで教えるわけです。
 しかし,2か月経つと,それを全部吸収してしまい,私たちが思いもつかなかった発想で逆提案がなされます。そして,半年経てば私たちに完全に追いついてしまいます。あるとき「何でこんなことを考えついたのか?」と聞いたら,彼はもともと医療分野で信号処理を担当していて,そこでは当たり前だった技術を光ディスクに入れただけだと言うのです。
 日本は何十年も同じ分野で研究開発をしますが,数年で意図的に専門を変えることで育つこともあるのだと感心しました。私も30年間光学技術を研究し続けてきて,壁に突き当たり,ある種遊びのような形で無線を始めたわけですが,行き詰まったときには思い切って異分野にジャンプをしてみるのもいいのではないかと思います。素人だからこそ専門家が思いつかない発想を得られることがあります。専門にこだわる必要はないのです。

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小林 誠司

小林 誠司(こばやし・せいじ)

1958年生まれ 1983年 電気通信大学大学院 1983年 大手電気メーカー入社 1989年 カリフォルニア工科大学留学 2018年 公立諏訪東京理科大学特任教授
●研究分野
情報理論,光学技術,ディジタル・アナログ回路
●主な活動・受賞歴等
産学公連携「スワリカブランド」創造事業プロジェクトリーダー

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