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工学を学ぶメリットは分析して思考する力をもてることであり どんな分野にも応用できるニューサウスウェールズ大学 Scott Tyo

エンジニアが実際に発生する問題を解決するために数学がある

聞き手:タイヨ先生の論文には,数式がぎっしり詰まっている印象があります。教授になるまでに,どのように数学的スキルを伸ばされたのでしょうか。

タイヨ:まず,1つは,私は幸運にも,大学でエンジニアのために提供された最先端の数学の授業を受けてきました。たとえば,大学1年生のときに2年生の数学をやっていたので,誰もが数学で1年先を進んでいました。
 もうひとつは数学的に非常に才能のあるEngheta教授との会話から物事の見かたを学びました。それから私がペンシルベニア大学の大学院に進学したとき,工学部の教授の大学院数学の授業も素晴らしかったです。それは純粋数学ではなく,応用数学でした。
 私の好きな幾何学は,物が空間とより複雑な空間にどのように配置されるかを記述する学問です。私たちが取り組んでいる偏光の研究の多くは,何が起こっているかの現象を幾何学的に説明できます。それはすべて,私が学校で学んだ数学にさかのぼります。その後,博士号を取得してから自分の研究が始まりましたが,私がまだ空軍にいたとき,授業をもつ機会があり信号処理のある項目を生徒に教えるために自分で勉強する必要がありました。その間ずっと,新しい数学を学びながら,自分の研究に適用する方法を見つけなければなりませんでした。

聞き手:工学系のエンジニアの方には,数学が苦手だという方も多いと思われますが,どのようにしたらいいかアドバイスはありますか。

タイヨ:私が教えている学生の多くも数学を嫌っているようです。エンジニアにとって優れたツールは,実際に発生する問題を解決するために使われる数学です。微積分学は,物理学の現象を記述するために考案されました。これらの現象を説明するために,実際にはさらに高度な数学の関数が発明されました。ほとんどの場合,数学で特定の仕事を実行する方法について学生は非常に優れた感覚を持っているので,私はいつも学生に数学を通して仕事をさせようと試みます。私は回路解析とその数式が必要であり,その方程式をどう進めるかを学生に伝えています。学生のほとんどが困難を感じるのは,数学を表現するのに十分な物理学を理解することです。
 あなたが数学的記述をし,プロセスが何であるかを理解することができればパラメータが何であるかを書き留めて,「ああ,ここでこれをやれば,ここでコストがかかるだろう」と,設計問題を解決したり,トレードオフをもっと早く見い出すことができます。どのようなレベルでも,物理学と光学のクラスで必要なのは実用的な工業数学です。これに慣れれば,設計ができるようになり,トレードオフが何であるかを理解することを可能にするでしょう。

聞き手:オーストラリアの大学では学部長として働いていますが,大学に光学科を作る計画はありますか。

タイヨ:オーストラリアには,光学教育だけを目的としたプログラムはありません。オーストラリアでは,研究のなかでも,量子光学は世界をリードする分野です。オーストラリアで知られている光物理学の分野は,物理学科または電気工学科のいずれかに存在する傾向があります。光学は成長産業であるという点で,エレクトロニクスと同じくらい重要です。そして,世界中にはほんの少しの光学教育プログラムしかありません。確かにそこに市場もありますが,今のオーストラリアには光学科を作るという計画はありません。

聞き手:日本では,物理と光学を勉強する学生の数が減少しています。オーストラリアではどういう状況でしょうか。

タイヨ:オーストラリアも同様で,工学を勉強する学生は減っています。理由はわかりませんが,生徒にとってより魅力的なものが他にもあり,工学に興味をもってもらう方法を見つけ出すことが課題です。多くの問題は数学です。学生からほかの分野に比べて数学が難しいと言われました。オーストラリアの大学の工学部は留学生に非常に依存している状況です。
 工学教育で私たちが教えているのは,必ずしも回路設計する方法ではないのです。それは,問題を分析し,解決し,条件を設定し,計測・評価できる部分に分割する方法です。それらのスキルは,工学だけではなく,ほかのたくさんの分野にも応用することができます。もし光学技術者になりたいなら,特定の技術的スキルを身につけられる良さがありますが,そのプロセスにより,分析して思考できるようになるのです。

インターネットで行う講義は幅広く勉強する機会を与える

聞き手:もうひとつ質問があります。あなたはインターネットを使って講義をしています。インターネット講義は,大学教育にどのような影響を与えているのでしょうか。

タイヨ:私はアリゾナ大学にいた2009年にインターネット講義を始めて,充実させてきました。3年生の電磁気学コースにおいて,電気工学プログラムの講義は通信工学と光学です。これらはYouTubeにおいてすべてオンラインで提供しています。実際に講義を受けている学生は10,000人いて,YouTubeでは約250人のフォロワーがいます。  学生は講義を聴くのが好きではありませんが,インターネット講義を見ている学生の大半は,南アジアや南西アジアの大学の学生です。私がアリゾナ大学にいたとき,物理光学のインターネットのコースを誰でも自由に利用できるようにしました。天文学を勉強したり,異なった分野の勉強をしている学生にとって,光学を教えている大学がほとんどないため,彼らは光学のコースの開講を望んでいました。オンラインでは,幅広く勉強をする機会を与えることになります。さらに,私達は3年生の電磁気学クラスの完全オンライン版を次の学期に提供するつもりです。離れたところにいる生徒のグループと大学の学生の比較をすることになるでしょう。彼らは同じ最終試験を受けるので,同じだけのパフォーマンスのレベルを得ることができるかどうかを調べることができます。
 私はインターネットでの教育の方向に動くと信じています。教授としての私たちの仕事に脅威を与えているとは思いません。これから数か月の間にすべての講義をやり直して,YouTubeで再公開する予定なので,O olus Eの読者の皆さんにも興味をもっていただけるでしょう。
Scott Tyo

Scott Tyo(すこっと・たいよ)

ペンシルベニア大学で電気工学を専攻 米国空軍勤務。ニューメキシコ大学,アリゾナ大学 オプトサイエンス教授 現在:オーストラリア ニューサウスウェールズ大学教授
●研究分野
偏光計測,リモートセンシング

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