【重要】技術情報誌『O plus E』休刊のお知らせ

限界は打ち破ることができないが壁は皆が協力すれば乗り越えられる日本電信電話株式会社(NTT) 篠原 弘道

B2B2Xを標榜し,お客様に価値のイノベーションを提供

聞き手:今ではFTTHが当たり目になってきていますが,FTTHが実現したからこそ可能となったサービスや,今後NTTが目指す方向などを教えていただけますか。

篠原:FTTHが当たり前になってきているというのは,速度や情報量を意識せずに,情報を取ったり,情報を上げたりできるようになっていることでもあります。そういう観点では,今やFTTHは経済活動や社会活動の基盤になっています。
 FTTHについては,順調にユーザーが拡大し,NTTグループがいろいろなサービスを提供する際の基盤になってきています。
 振り返ってみると,昔は,電話を提供すると,好きなところに電話ができるようになってありがとうございましたと言われました。次にインターネットの時代になり,人と情報をつなぐことで,情報を自由に持ってこられるような環境をつくってもらってありがとうと言われました。スピードも非常に速くなり,ストレスなく情報を持ってこられるようになりました。ブロードバンドアクセスが当たり前になってきて,今やIoTですべてのものがつながるようになりました。そして,これからは単にサービスを提供するだけでなく,ブロードバンドのICTを使い,産業分野にいかに新しい価値を生み出していくかが,われわれの役割であり,日本全体の大きな方向だと思っています。
 今までNTTグループは,B to Cでコンシューマーにサービスを提供する,B to Bでビジネスユーザーにサービスを提供する,つまりNTTがお客様にサービスを提供する考え方がメインでした。しかし,最近では,「B2B2X」を標榜しています。最初のBはわれわれです。次のBはほかの業種です。われわれのブロードバンドアクセスを含めたいろいろなICTのケーパビリティを使い,他の業種の方々が新しい価値を生み出して,それをお客様に提供していけるようにします。Xは,コンシューマーでもあり,ビジネスユーザーでもあり,政府でもあります。「B2B2X」の世界に向けて,今われわれは一生懸命取り組みを進めています。
 その中では,いろいろなことをやっています。変わったところでは,歌舞伎にICTを入れて,新しい歌舞伎を作っていこうと,中村獅童さんと初音ミクを舞台上で共演させたり,離れた場所にいる中村芝翫さんとその息子さん3人を合成して,一緒に襲名披露をさせたりしています。また,製造業の分野では,ファナックとの協業によるロボットの高度化や,三菱重工との協業によるものづくりに革新をもたらす高出力の加工用レーザー光の伝送なども実現しています。三菱重工との協業では,通信用のファイバーの研究が,今まで想像していなかった加工技術につながりました。
 自分が今いるポジションの中でもちょっと視点を変えると,まったく違うところで新しい価値を生み出す可能性があります。それは,自分のフィールドにいただけでは見えず,別の産業や分野の人たちと話すことで初めて見えてくるものです。自分たちの世界で常識だと思っていたことでも,別の世界では常識ではないことがあるからです。そういったことをうまく取り込むことによって,自分たちの持っている技術を,さらに広げることが可能になるのです。
 最近イノベーションという言葉が流行っていますが,イノベーションというのは技術ではありません。AIによるイノベーション,IoTによるイノベーションと言っても,AIやIoTはあくまでも手段でしかなく,目的ではありません。AIを使っていなくても目的が実現できればいいわけです。結局,われわれが考えなければいけないことは,価値のイノベーションです。どんな価値をつくっていくのかということです。私が先ほど顧客視点が十分ではなかったと言ったのは,お客様が喜ぶ価値は何か,そこをしっかり見定めることが重要だということです。

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篠原 弘道

篠原 弘道(しのはら・ひろみち)

1954年生まれ。1978年 早稲田大学大学院・修士課程修了。同年,日本電信電話公社(現 NTT)入社,光アクセス技術の研究開発に従事。アクセスサービスシステム研究所長,情報流通基盤総合研究所長,研究企画部門長を経て,2014年 代表取締役副社長。2018年6月より取締役会長。

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