【重要】O plus E 隔月刊化と価格改定のお知らせ

問題点の解決を図る道は,なぜうまくいかないのかをじっくり調べることにある香川大学 石井 明

「なぜ失敗したか」を考えるから,新たなことが見つかる

聞き手:研究を続けていくなかでうまくいかなかったり,壁にぶちあたったりしたような時,どうやって乗り越えてきているのですか。

石井:研究をやっていて一番思うのは,ほとんどがうまくいかないことです。うまくいかないから,取り組むのです。特に目視検査の自動化で依頼が来る仕事は現場でさじを投げたようなものばかりです。なぜうまくいかないのかをじっくり調べていると,解決の糸口が出てきます。それが大切だと思います。失敗すると「なぜ失敗したか」を考えるから,何か新たなことが見つかるのだと思います。
だから私は「できない」と言われると,元気になります。「なぜできないの?」と聞けますからね。自分もまるきり可能性のないことはやらないけれども,何となくできるイメージだけがあって,それを明確にしていくような感じです。そうすることが研究なのかもしれないし,問題点の解決を図る道だと思っています。
 企業との連携も電話がかかってきて「会いたい」と言われたら,基本的に断りません。人と出会うというのは,70億人いる中の,びっくりするような低確率です。だから,昔からその出会いを大切にしています。最初がすごく肝心で,向こうが満足すれば意気投合できるし,満足しなければそこで終わりです。向こうが満足しないということは,こっちも満足していないです。「やって」と言われると何でもやりますが,その時に「こんなことをやってみたい」と常にイメージを持つようにしています。常に挑戦させてくれる機会を与えられていると思って,できるだけ最善を尽くす気持ちで今までやってきています。だから,本当は同じことを2回やるのは嫌いです。同じことでも新たな機会だと思って行います。授業や講演の時にも集まる人たちがどんなことに興味を持っているかを考えて,それに沿った内容を作って臨みます。

聞き手:感察工学研究会の「感察」の「感」も,そういうところから「感じる」という漢字を使っているのですか。

石井:「感察」は造語です。「感じて察する」ということです。私は「感じて察する」ことは日常生活でも大切なことと思います。今は「察する」ことができにくくなってきたのではと思います。ラインでは情報は感じても発信者の意図を察することは容易にできないと思います。察するには相手のリアクションが必要と思います。相手が目の前に居れば瞬時に意図を察することができます。ラインでは「行く?」と言ったら,「行く」というだけで,リアクションはあるけれど,相手の気持ちを察することはありません。絵文字だったら多少は感情が入るかもしれませんが。
 目視検査を通して脳科学的なところを勉強していくと,私たちは自分のことをほとんど表現できない,知らないというか認識できないのです。ただ,体は知っていて,たくさんの情報を持っています。
 目からは常に画像情報が視覚野に送られています。ですから,ちょっとした違いがわかるのは,まさに見ているからです。しかし,何かを考えた瞬間に,必要な情報の抽出に変わってしまうのです。
本来はたくさんの情報を持っていたのが,一部の情報しか出てこなくなります。話をする時も,相手のリアクションに応じて話す内容が変わります。話すときには,脳の様々な領域が刺激され,その場に適した言葉が作りだされます。そうやってお互いに話をしていると,楽しくなります。自分の意図を伝えるには話してみなければわからないし,話してすれ違いになるなら,それはそこで終わりです。たぶんビジネスでも同じだと思います。 最近,目視検査改善キャラバンの活動を行ってきて悩んでいることがあります。それは,指導した企業の担当技術者や責任者の配置換えの問題です。検査担当の技術者が周辺視目視検査法をマスターしたら,その人を核としてその技術を水平展開することが期待されます。しかし,多くの場合,その技術者がその検査部署に居続けることはありません。検査は製造部の一部署であるため,次は,生産技術部,品質保証部へと数年ごとに配置換えされてしまいます。せっかく,周辺視目視検査法をマスターした技能者でありながら,その技能を高め続けるような取組が見られません。周辺視目視検査法をマスターしたら,不良品の見逃しなど起こさないのかという問いに対しては,見逃す恐れはあるが正解と考えています。ベテランといえども日々研さんです。周辺視目視検査法をマスターした技術者だからこそ,新人の教育も担当しながら,検査部署全体の改善活動の継続を図っていただきたいと思います。
 新たに検査部署を引き継いだ人を私たちが再教育する余裕はありません。マイスター制度のように技術者の地位を確立する取り組みが是非とも必要と思います。
 製品の保証を管理するのが企業の品質保証部です。だから,品質保証部は,ミスった物が出た瞬間に出荷を停止させる権限を持っているわけです。ただ,現実的には,生産をストップさせるだけの権限を持つ人たちがいないのが大企業病なのかなと思います。今はいいかもしれないけれど,将来は絶対にだめだと経営陣が理解して,てこ入れをしてきちんと守って維持していくことが大事です。それがないと,日本の製造業は本当に暗いことになります。検査部門はなぜ不良が発生したのかを周りの部門に言えるし,周りの部門は設計に文句を言うところまで持っていく必要があるだろうなと思います。

継続できる仕組みを作ると継続できる

聞き手:最後に,若手研究者や学生に向けてのメッセージをお願いいたします。

石井:一言「継続」です。私は地元の山歩きの会に2011年9月に入りました。その会の会長は今年,94歳。至って元気です。会長から常に言われることは「石井さん,何でもいいから,とにかく継続することよ」です。本当に素晴らしい言葉だと思います。私が毎日,継続していることは, 朝5時過ぎに起きて,自宅の周囲を2キロぐらいその日の予定を考えながらゆっくりジョギングすることです。こうやって走ることを,自分の健康のバロメーターとして継続しています。毎日,走り始めの,足が地面から受ける感じは違いますが,走り終えてくるとだいたい前日と同じ感じになります。人は常に細胞が入れ替わっているので,毎日同じ状態ということはありません。昨日の石井は今日の石井と本当は違うはずです。継続するのはすごく大変ですが,継続できる仕組みを作ってしまうと,継続できます。ほかのことも同じで,諦めないと続けることができます。あとは,いろんな方との出会いを大切にしてもらいたいと思います。
石井 明

石井 明

●石井 明(いしい あきら)先生 ご経歴
1978年 電気通信大学電気通信学部機械工学科卒業 1980年 電気通信大学大学院電気通信学研究科機械工学専攻修了 1980年 電気通信大学助手 1995年 電気通信大学講師 1996年 電気通信大学助教授 1998年 香川大学助教授 2002年 香川大学教授
●研究分野 
工業製品の視覚検査の自動化 子どもの健康な視力の維持 成功する目視検査
●主な活動・受賞歴等
精密工学会, 日本非破壊検査協会, 日本機械学会, 日本材料学会, 日本材料試験技術協会

私の発言 新着もっと見る

本誌にて好評連載中

一枚の写真もっと見る

研究室探訪もっと見る