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1つステップを超えるには大きな目標を一緒になって苦労を分かち合う仲間の存在が重要東京工業大学 大山 永昭

現象を素直に受け入れて,その裏に隠れているものを見つける力を養う

聞き手:弊誌読者の光学を学ぶ学生や若い技術者に向けてメッセージをお願いいたします。

大山:若いうちは1つの問題が生じると,そこに引っかかって抜けだせないことがあると思います。現在の私は,複数の問題を抱えるのは当たり前で,それらに深くとらわれないようにしています。我々の職業の特徴は,深く考える時間を使うことができることです。本質の理由を見つけなければなりません。この考える時間は非常に重要で,私にとって一番よかったと思うのは,東京工業大学の研究職なので,時間の制約が少ないということです。朝から晩まで忙しく仕事をしているとじっくり考えるのは難しくなります。私は1人で考える時間が一番大事と思っています。深く考え,仮説を置いて,検証してもらいながら物事を進めるべきと思います。この途中で,多くの人との意見交換を通して,仮説をより強くします。その結果が,政府への提言や新たなシステムの提案になるわけです。
 もちろん,失敗の経験も必要です。失敗したからこそ分かることが多くあります。研究・開発の報告書には「概ね良好に研究は進捗した」と書いてあるのを見かけますが「本当に大事なのは,まずかったこととその原因分析であり,これらも記載すべき」と言っています。同じミスを他の人がやらないようにするためにも,私は大切と考えます。もちろん,ストレートに書きにくいのは分かりますが,もっともよく知っているのは,その研究に従事した人です。
 光は,物理の基本で,目に見えるというのはすごいことです。現象を見た人に興味を抱かせる訴求力がありますよね。私の好きな写真で話すと,レンズは不思議です。X線のレンズはないでしょう? 反射型しかできません。だから,X線写真はきれいじゃないと言ったら怒られるかもしれませんが,光の利用効率が悪いわけです。光を集光する凸レンズのようなものができないからです。そう考えると,可視領域のところにどうしてうまく曲げるレンズみたいな物質があるのかを考えるのも,とても面白いと思います。
 昔だったらトランジスター,コンデンサーや抵抗などいろいろな部品を使って回路を組んでいたのが,今はほとんどがチップ化され,そのチップもLSIがVSIになってと変わってきています。そうすると,調子が悪くなっても,何が壊れているかが分からなくて,ボードごと交換しています。それはそれでいいけど,何も分からずに,ただ交換すれば直るとなってしまうと,それは,問題の本質を見る力がなくなるような気がします。この点は,社会課題の解決を図る研究をしていると,つくづく感じるところです。
 学問の中には,現実から離れることに価値がある領域もあるので何とも言えませんが,少なくとも光学の研究は物理系で,現象を素直に受け入れるわけです。事実が現実なのです。実験であれば現象なのです。それを受け入れて,その裏に隠れているものを見つける力を養うのが大事であると思います。変な言い方ですが,程度の違いはありますが,1つの分野の専門知識では不十分ではないでしょうか。これまで色々なことをやるたびに,その度ごとに学んできました。そうすることで,いろんな見方ができるようになったと思います。
 実は,私は自分の専門性を貫いて教授になりましたが,助教授のころから社会的にインパクトのある研究をしたいと思っていました。幸いにして,医療情報関連の研究成果を上げることができ,教授になる時もこの点も高く評価してもらいました。
 今,私が進めている研究は行政に近いと思います。そのためには当然行政機関をよく理解しなければなりません。そのため,過去10年にわたって総務省と経産省から研究出向してもらっています。互いに理解するには,別の勉強も当然しなければなりません。自分にとって,描いていた将来像があって,その実現には非常に長い期間を要するとともに,広範囲にいろんなことをやらないとできないテーマだったということです。
 画像処理や認識を研究していて,行き詰まり苦しんだときもありました。世の中のタイミングとも関係があります。自分で頑張らなくても,世の中の技術が伸びてきて,できるようになることもあります。今のAIだって技術進歩の後押しが大きいと思います。それだけ,コンピュータの処理能力が高まったということでしょう。  新しい発想が生まれるのも速いですね。速過ぎるが故に社会が追い付いてこないことも見受けられます。大体,マイナンバーが導入されるというのは,住基の頃を思い出すと,環境変化が無ければ有り得なかったと思います。そういう世の中の変化とも関係があるので,それまで自分が考えていたことが受け入れられる状況になると,ぐっと伸びるのではないかと思います。
 しかしながら,同じようなことを若い頃から経験しろと言っても無理なので,まずはじっくり考える癖をつけることが重要と思います。それから,自分が話していることが相手に伝わらないのは,自分の説明の仕方が悪いと思わないといけません。それができるようにならないと,他分野の人とのコミュニケーションは非常に難しくなります。これに慣れるためには,専門外の学会等で視点を変えて,発表するのも効果的だと思います。専門分野が分かる人でなく,全然違う人たちに同じことを説明してみるのはとてもいい経験になるのではないでしょうか。
大山 永昭

大山 永昭

●大山 永昭(おおやま ながあき)氏 ご経歴
1983年 東京工業大学 像情報工学研究施設 助手 1988年 東京工業大学 像情報工学研究施設 助教授 1993年 東京工業大学 像情報工学研究施設 教授 2000年 東京工業大学 フロンティア創造共同研究センター 教授 2005年 東京工業大学 像情報工学研究施設 教授 2010年 東京工業大学 像情報工学研究所教授 2016年 東京工業大学科学技術創成研究院教授 現在に至る
●研究分野
医用画像工学,光情報処理,社会情報流通システム
●主な活動・受賞歴等
1995年 科学技術庁長官賞 1997年 通商産業大臣表彰 2000年 郵政大臣表彰 2005年 総務大臣表彰 2010年 文部科学大臣表彰 科学技術賞(研究部門)

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