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1つステップを超えるには大きな目標を一緒になって苦労を分かち合う仲間の存在が重要東京工業大学 大山 永昭

何十年もかけて検討した結果,マイナンバーカードで病歴も管理できるところまできた

大山:生涯に渡る個人健康管理システムの実現は本当に重要なテーマで,複数の国や大企業等がその実現を目指した取り組みを行ってきましたが,真の効果が発現するのに長期間を要することから,その多くがすでに中止になっています。
 社会保障分野には,対象となる住民全員のデータベースがありません。例えば年金は対象者が一定年齢以上です。健康保険は個人単位化されていないものや住所が記録されていない例があります。さらに,1人の人が2枚の健康保険証を持っていることもあります。この状況は,年金手帳で基礎年金番号を出したために,宙に浮いた記録が生じてしまったケースに似ています。
 日本には戸籍制度がありますが,社会保障や行政サービス等を電子的に提供するには,本人の居住地に依存するものが多くあるので,戸籍ではなく住民基本台帳を使うことになりました。これらのサービスは,外国人を含めた住民の権利義務に関係するため,住民基本台帳法を改正して外国人住民を追加してあります。
 話が遡りますが,90年代半ばに,当時の自治省(現 総務省)が住民基本台帳ネットワーク(以後,住基とする)の構想を出しました。技術面の人が少なかったので,私も途中から住基ネットと住基カードの開発に関与しました。あの頃,住基は反対意見が強く大変でした。住基ネットが稼働したのは2002年だったと思います。
 住基ネットとともに,住基カードが発行されました。ここから今のマイナンバーカードにつながります。住民票がどうして信頼できるかというと,自治体の人たちが,転入してくる人や,あるいは建物を建てたりすると,現地に行って確認することがあるからです。自治体の人たちが地域社会を見守っているので,信頼できるものになるのです。それでも抜けがあるかもしれません。でも,住基ネットがあるから今のマイナンバー制度ができたのです。
 日本には多数の保険組合があります。具体的には,国民健康保険組合,協会健保,それから大手の企業等が持っている健康保険組合になります。これらの保険者は各々の連合会等を通して,審査支払基金に事務の委託をすることになりました。審査支払基金は,番号法により情報連携を行うこととされているため,いわゆる個人別の機関別符合(リンクコードとも呼ばれている)が被保険者全員に提供されます。このことは,住基ネットから来ている住民票に間接的に裏打ちされたことになります。この機関別符合は,生活保護の対象者(健康保険の被保険者ではないため)には提供されませんが,大多数の対象者をカバーするデータベース(台帳)の構成要素になります。生活保護の課題は残りますが,社会保障分野でようやく個人番号の発番が可能になります。この番号は医療等IDと呼ばれています。
 2018年になってやっと本格的な議論が再開されました。現在,厚生労働省において検討会が開催されていますが,医療等IDの導入目的である医療情報の連携の実現は,簡単ではありません。残酷で日々発生する医療情報は極めて大量であるため,入力ミスの発生が懸念されます。具体的には,年金記録が全数で7億件ぐらいあるのに対して,医療ではレセプトの請求だけで,年間約17億件あります。医療情報はこれらのレセプトに紐付いているのです。現実には,これらの事務処理は手作業で行われることがあるため,間違いが起きる可能性を否定できません。いうまでもなく,医療等IDの入力ミスに起因する医療情報の紐付けミスは,絶対に避けなければなりません。
 そもそも医療情報をつなぐのは,患者さん本人に対するケアのために使うのが主だと思います。ビッグデータは付加価値的な位置付けではないでしょうか。自分の意識がないときに使われる可能性があることを考えると,紐付けミスは絶対に避けなければなりません。
 このミスをなくすためには,入力時からミスが生じないような技術を使うこともありますが,最終的には医療機関と患者の責任分界点を明確にすることが必要ではないかと思います。われわれ患者側も,医療機関にお任せではなく,少なくとも受診した医療機関の記録を確認することで,重複や抜けをなくすることができると思います。そのためには,自身の記録を確認できる環境を整備することが重要でしょう。
 この意味で,自身の病歴をつなげたいと思う人には,マイナンバーカードの利用を勧めています。まだ実証実験の状況ですが,その効果はすでに確認されています。この手法では,マイナンバーカードに搭載されている,2種類のJPKI(Japan Public Key Infrastructure:公開鍵暗号基盤)を使っており,逆にマイナンバー自体は使っていません。1つは電子署名用です。例えば,税金の電子申告などで求められているものです。電子署名は,実印相当ですから頻繁に使うことはありません。もう1つは利用者証明といって,こちらは通常ログインに使います。利用者証明もPKIベースで,個人別に異なる鍵を用いているため,万が一1つの鍵が漏れても,他の人に影響することはありません。利用者証明を用いるアプリケーションの1つに,マイナポータルへのログインがあります。
 同じように,平成30年度から開始が予定されているのが,少し遅れ気味ですけれども,健康保険のオンライン資格確認があります。この資格確認の実施により,年間返戻数を現状より数100万件は減らせると期待されています。返戻が起きると医療事務が二重,三重の手間になり事務処理の負荷が増しているのです。
 このような手間を減じるために,マイナンバーカードがサポートするJPKIを用いて健康保険の資格確認を実現します。総務省の実証実験によりその有効性は確認されていますが,マイナンバーカードがサポートしている利用者証明サービスには,世界初の新しい機能が入っています。すなわち,通常の利用者証明サービスでは4桁のPIN(カードへのパスワード)を入れます。そのパスワードはカードのチップ内に記録されており,入力されたPINの正当性をチップ内で確認するので,高い安全性を有しています。新しい機能は,このパスワードを使わずに使えるものです。
 この追加された機能は特定機関認証と言って,興味深いのは,時刻の情報を加えると,いつ誰がどの特定機関と相互認証したかがデジタル署名付きの電子ドキュメントとして残ることです。この電子ドキュメントはいわゆるエビデンスになると思われます。言い方を変えると,これらの組み合わせがないと作れないドキュメントなのです。そのため,自分がいつどの医療機関を受診したかが全部記憶に残ります。他の人とは証明書の番号が違うので,紐付けミスは生じません。このことから病歴まで管理したい人は,保険証のオンライン資格確認にもJPKIを使ってくださいとお願いしているわけです。
 平成26年度にやった実証ですが,マイナンバーカードをリーダ・ライタに置いた時点で通信が開始されます。このときの実証システムでは,約300 km離れたサーバーから保険証情報を取得するのに4秒弱を要しました。この処理で保険証の状態が端末に表示され,いつ誰がどこに行ったとエビデンスが副産物でできあがります。このエビデンスはご本人のJPKIに紐付いているので,これらを集約し時系列で並べると自分の受診履歴の一覧表ができます。もちろん,本来の医療情報は,受診した医療機関が保管しているので,必要に応じて本人の医療情報にアクセスできる可能性が生まれます。
 ほかにもクレジットカードにJPKIを紐付けるのも可能になることを実証実験により確認しました。つまり, マイナンバーカードのJPKIを使うと,カードが保険証やクレジットカードの機能を持てるのです。ですから,電子処方せんがJPKIに紐付くと,近い将来には,病院に行って薬をもらって帰ってくるまで,マイナンバーカード1枚で行うことができると期待されます。処方箋も電子化し個人単位での管理ができれば,調剤薬,服薬を含めた個人の病歴の管理が実現されます。
 電子空間における本人確認をしっかりできるようにするのが,いかに重要かをご理解いただけたと思うのですが,実証レベルでは,その有効性が確認されています。2010年ぐらいから検討を始めたと思いますが,今回をきっかけに2種類のJPKIを入れようという話になりました。電子処方せんを紐付ける話も現在検討しています。そして,費用対効果に優れる実施方策を研究しています。

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大山 永昭

大山 永昭

●大山 永昭(おおやま ながあき)氏 ご経歴
1983年 東京工業大学 像情報工学研究施設 助手 1988年 東京工業大学 像情報工学研究施設 助教授 1993年 東京工業大学 像情報工学研究施設 教授 2000年 東京工業大学 フロンティア創造共同研究センター 教授 2005年 東京工業大学 像情報工学研究施設 教授 2010年 東京工業大学 像情報工学研究所教授 2016年 東京工業大学科学技術創成研究院教授 現在に至る
●研究分野
医用画像工学,光情報処理,社会情報流通システム
●主な活動・受賞歴等
1995年 科学技術庁長官賞 1997年 通商産業大臣表彰 2000年 郵政大臣表彰 2005年 総務大臣表彰 2010年 文部科学大臣表彰 科学技術賞(研究部門)

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