【重要】技術情報誌『O plus E』休刊のお知らせ

実験屋はシミュレーションを過信せず,実験結果に真摯に向き合ってほしい富山県立大学 野村 俊

一緒に研究できた人たちは私の財産

野村:学位をいただく少し前に,不二越から依頼された研究がありました。半導体のウエハを切断する装置の開発をしていたのですが,ウエハの径が大きくなると内周刃ブレードの変形でウエハが割れてしまう現象があり,この問題を解決してくれと頼まれたのです。
 内周刃ブレードの三次元の形状を静電容量型センサーと不二越で開発直後のエアースライドと,独自に開発した三次元形状表示プログラムを用いて計測しました。その結果,ブレードの母材であるステンレス板の圧延方向の影響で異方性の歪が生じて,張り上げた状態でブレードの平面度が悪化していることが分かりました。それを解決するために,内周刃の形状を円から楕円にすることで,張り上げた状態でブレードの平面度を良くすることができ,問題が解決しました。当時大学院生だった,永田可彦さん(産総研)と一緒に,MZ-80やPC9801でプログラムを作成しましたが,形状のパソコンによる三次元表現としては初期の試みでした。このときの経験が,後の研究に大変役に立ちました。
 研究室では,奥田聖一さんが最初のドクターの学生でした。卒研で入ってきた当時の彼はゲーマーで,皆でC等のソフトウエアの使用を奨めました,祭り上げる様に。そして,彼は大変素晴らしいプログラマーとなり,学位を取られて東京の会社に就職され,今も活躍されています。
 他にも,長野高専で准教授をされている鈴木伸一先生や中央大学教授の沼田宗敏先生は,どちらも企業出身の方でした。偶然のめぐり合わせで,お二方の指導をすることになりました。私が外部の方を博士課程に受け入れるときには,すぐに博士課程の学生として受け入れず,しばらく一緒に研究をしてもらうことにしていました。それは,研究者に向かない方を受け入れた場合,お互いに不幸になってしまうと考えたからです。
 出身大学の指導教員の吉川先生は,大変おおらかな先生で,学生が好きなように実験することを許してくださいました。その結果,多くの研究者を育てられ,私だけでなく田代発造先生,格内敏先生らにそれが受け継がれました。そして研究者の孫のような今の富山県立大学の研究室の教授の神谷和秀先生へと受け継がれています。
 私の周りの多くの先生,先輩,学生は大変優秀で,彼・彼女らに会うことができ,一緒に研究できたことは私の財産だと思います。

研究が楽しくて苦にもならなかった

聞き手:学会活動に関してお教えください。

野村:精密工学会を中心に活動をしてきました。技術領域としては光計測に関することです。
 三次元光計測の分科会を設立し,分科会長として対応し,途中で当時の東京農工大の吉澤徹先生が委員長のメカノフォトニクス委員会と発展的に一緒になり,今に至ります。
 この専門委員会では,大学の先生だけでなく,国の研究所の方々,企業の研究者の方々と大変懇意にさせていただいております。
 メカノフォトニクス専門委員会は,単なる光学(オプティクス)にとらわれた原理の応用や特定の狭い分野への適用にとどまらず,メカノフォトニクスという呼び方をして,その立場から,これを利用しうるような原理技術と関連の要素技術および応用技術を,各方面から協同開発研究,調査研究,討論を行い,精密工学とその関連業界の発展に寄与することを目的としています。

聞き手:研究でお困りになられた時にどう対処されたか等のエピソードがありましたらお教えください。

野村:若いころには実験装置も無く研究費も不足していたことです。出身大学の吉川先生の実験室と装置を使わせていただきました。振動に敏感な実験でしたので,近くの鉄道に列車が通過しない深夜1時から4時頃の時間帯に実験をするようにしていました。若いころは研究が楽しく,苦にもなりませんでした。
 私の研究室の光学実験では,振動のノイズが一番小さい夜中に,よくデータを取っていました。これは当たり前のことのようですが,経験がないと,どうすれば効率よくできるのか,というのが分からなくて,使えないデータをたくさん取得して,後悔することがあるかと思います。
 私の学生時代の研究室で実際に行っていたのは,自分たちで当時の国鉄の貨物線の時刻表を作りまして,電車が近くに来る時間帯を避けるように,実験のスケジュールを立てました。コロンブスの玉子ですかね,言うは易しですが。

東京工業大学辻内研究室研修中のころ


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野村 俊

野村 俊(のむら・たかし)

1950年 富山生まれ 1973年 富山大学工学部生産機械工学科卒 1975年 富山大学大学院工学研究科生産機械工学専攻修士課程修了 1975年 吉田工業㈱ 1976年 富山県立技術短期大学機械科助手 1981年 富山県立技術短期大学機械科講師 1989年 富山県立技術短期大学機械科助教授 1990年 富山県立大学工学部助教授 2001年 富山県立大学工学部教授 2016年 同大学退職 2016年 同大学地域就職アドバイザー 現在に至る
●研究分野
計測工学,機械力学
●主な活動・受賞歴等
1973年 日本機械学会畠山賞 1996年 とやま賞 2006年 日本機械学会学会賞 2006年,2008年 先端加工学会論文賞 2015年 精密工学会沼田記念論文賞

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