【重要】技術情報誌『O plus E』休刊のお知らせ

自分で流れを作り出すことに取り組む勇気を持ってほしい東京大学 荒川 泰彦

苦労ではないけれど電話会議でタフな議論もする

聞き手:そう言われると行かざるを得なくなりますね。さて会長を務められてきてご苦労はございましたか。

荒川:会長としての苦労ですか。まずは,現在53カ国ある加盟国をどう増やすかということですね。また,苦労というほどではありませんでしたが,国際光年活動への貢献に関連して,2015年は忙しかったですね。あとは開発途上国に対してのサポートをどうするかといった問題や,人権問題にどう対応するかなどいろいろありました。
 例えば,ある研究者がある国で政治犯として監獄に入れられたりすると,ICOとしてどういう声明を出すのか,そんな議論をする必要があります。それは,ICOも,他の国際学術連合と同様,その社会的・国際的使命として,このような問題にも立ち向かうことが求められているからです。また,先ほど申し上げましたUnion化は,この3年間の一番大きな課題でしたので,だいぶタフな議論をしました。ICOの内部でも,学会の利害関係などもあり,この辺りはなかなか大変でしたね。
 あとは,大したことではないのですが,ICOでは毎年1回理事会を開催していますが,それ以外にも執行部だけで,年に数回会うとともに,頻繁に電話会議を行ってきました。電話会議は固定した執行部のメンバーにより行われます。多くても10人ぐらいですので,慣れると特に名前を名乗らなくても誰が発言しているかがわかります。電話会議は,時差の関係で日本時間では夜の11時ごろに設定することが多いのですが,司会の立場でありながら,長引くと眠くなり,閉口したこともありました。

研究には,限界がない。終わりと思っても,必ず次の進歩がある

聞き手:最後に,若い人たちに光に対するメッセージをいただけますでしょうか。

荒川:光の科学と技術は,これまでさまざまな形で発展してきました。他の学問と同様,それぞれの時点では,一見,発展の限界に達しマチュアーしているように見えていました。しかし,研究者が深く考え,また努力をすることにより,新しいブレークスルーや新概念が生まれてきたといえます。これにより,非連続性を伴う次の発展が創出されてきました。
 若い人にとっては,今の主流の研究を礎にして,広く勉強することが必要ですし,その大きな流れに乗った研究を取りあえず体験することは,大変意味があります。しかし,新たなステップを創出するためには,さらに自ら深く突き詰めて考えること,大きな流れとは異なる視点を持ち込むこと,この2点が重要になります。これにより,一見マチュアーしているもの,あるいは終わったと見なされている研究テーマも,新しい学問の芽としての創成につながるのではないでしょうか。ただし,新たな視点を持つためには,いろいろな異種の人や知見と交わる必要があることは,いうまでもありません。
 ビジネスでも,市場の発展が飽和したと世の中が考えたときに,先人は新たなビジネスや市場を創り出してきました。今は大企業でも新しいビジネスモデルを創ることが求められており,個人の力量が一層問われる時代になっています。その意味では,ビジネスと研究は,似ている点が多々あるといえます。
 今の時代は進化のスピードが速いですから,一つのことで成功しても,すぐマチュアーな状態になる,いや,マチュアーくらいだったらまだいいほうで,気が付くとすぐその価値が大幅に低下していることもしばしばあります。もちろん,簡単に下がらない普遍的価値を有する研究成果を生み出すのがベストですが,そう容易ではありません。その意味で若い研究者たちは大変な時代に生きているのかもしれません。ぜひ,流行を追いかけるだけではなく,自分で流れを作り出す心意気を持ってほしいものです。研究を楽しみながら取り組むことにより,既成の概念を超えた光の科学と科学の技術を生み出してもらうことを期待しています。
 研究もビジネスも,その成功は,能力,運,努力の積で決まります。加えて,意志も重要ですので,自分の価値観に基づいて登るべき山を見定めてほしいものです。もちろん,成功するだけが人生ではありませんし,そもそも成功とは何か,深く考える必要があることはいうまでもありません。
荒川 泰彦

荒川 泰彦(あらかわ・やすひこ)

1975年 東京大学工学部電子工学科卒業 1980年 東京大学工学系研究科電気工学専門課程修了 工学博士 1980年 東京大学生産技術研究所講師 1981年 東京大学生産技術研究所助教授 1984年から1986年 カリフォルニア工科大学客員研究員 1993年 東京大学生産技術研究所教授 1999年 東京大学先端科学技術研究センター教授(2008年まで) 2006年 東京大学ナノ量子情報エレクトロニクス研究機構長 2008年 21・22期日本学術会議会員 2012年 東京大学生産技術研究所・光電子融合研究センター長
●主な受賞
1991年 電子情報通信学会業績賞 1993年 服部報公賞 2002年 Quantum Devices賞 2004年 江崎玲於奈賞 2004年 IEEE/LEOS William Streifer賞 2007年 藤原賞 2007年 産学官連携功労者 内閣総理大臣賞 2009年 IEEE David Sarnoff賞 2009年 紫綬褒章 2010年 C&C賞 2011年 Heinrich Welker賞 2011年 Nick Holonyak,Jr.賞 2012年 応用物理学会化合物半導体エレクトロニクス業績賞(赤崎勇賞) 2014年 応用物理学会業績賞 2017年 日本学士院賞

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