【重要】技術情報誌『O plus E』休刊のお知らせ

自分の仕事に誇りをもつと同時に楽しむことを伝えたい元シチズンホールディングス(株) 社長 梅原 誠

言うべきことはきちんと言うことで乗り越えられる

聞き手:研究・開発プロセスにおいて,求められた成果が出ないなどの理由で自信を喪失されたり,試行錯誤して苦悩された苦いご経験がありましたら,ぜひそのエピソードをお聞かせください。

梅原:先ほど言いました社内機で,長い棒状のものを自動的に機械の中へ取り込む自動供給装置を設計しました。リレー回路を組んだメカニカル的にもどうということはないものですが,削り終わった後に残った残材を引き戻すためには,矢尻の根元のような形の「かえし」を作らないと,残材を引っ掛けて戻せません。
 この端末加工では,材料に対して工具が滑ってはだめです。そして加工時には回転して削り込んでいきます。私も力学設計から安全率を考えて作りましたが,いかんせんその面盤が直径200ミリφと大きく,その間にレバーを入れたり,円錐型カムで回転しながら動かす必要がありました。当時,このベースは鋳物で作るしかなく,試作したのを現場へもっていきOKもらいましたが,現場へ入れた後に,これが外れてすっ飛んでしまいました。毎分2,600回転ぐらいで鉄の輪が外れてしまうと,そこに作業者がいたらひとたまりもありません。すぐに現場に呼び付けられて「おまえは人を殺す気か」としかられました。
 その時に,設計の責任をつくづくと感じました。「もっと慎重にやるべきだった」と思いました。材料や加工法の選択も,回転する工具ももっと小さくても本当はよかったのです。幸い人身事故にならずに済み,それだけはほっとしました。
 デバッギンググループでの仕事を2年やりました。その時に,現場にも感謝する,作る側にも感謝する,ユーザーにも感謝するということを学びました。
 その後,今度は「営業部門へ行け」と言われました。「なぜ,技術系で話下手な人間を?」と私は悩んでしまいました。これが3回目の退社を考えた時です。そのころ私は結婚をしていましたが,私の義理の兄が2つ上で,同じ東北大学を出て商社の丸紅で機械部門に勤めていました。その義兄に「兄さん,おれは会社を辞めようと思っている」と話した時,「君,それこそはチャンスだよ。逆にいろんな人と付き合えるし,これは絶対受けるべきだよ」と言われました。それで思い直して,販売部門へ行きました。
 販売部門では,さまざまな種類のツーリング(顧客対応専用設計・製作)を扱っていました。そのころは,どの産業でも自動化とか自動化技術とかについて書かれた雑誌がいっぱい出ているような時代で,ここでも自動化がテーマになっていました。
 でも最初は,お客さんの怒鳴り声ばかりでした。頭を下げるしかないという感じでした。というのは,最初に作ったトライアルの機械をなかなか受け入れてくれないのです。それは確かにうちも悪いのですが,お客さんの流す部品の品質も良くないのです。とは言え,コストダウンが目的での自動化ですから,コストが上がる要因となる部品の精度を上げてほしいとは言えないのです。
 ただ,応援してくれた先生方がいました。特に東京理科大学の教授で前の精機学会の学会長をなさった谷口紀男先生。谷口先生は非常に温かい目で見てくださり,きついこともおっしゃるけれども,「日本の生産技術はこうあるべきだ」ということをきちっとおっしゃってくださる人で,この先生に助けられました。
 例えば,学会でも2~3回発表をしたのですが,谷口先生が,「機械もそうだけれども,部品の均質な品質が出ないとできませんよ」と口添えをしていただきました。学会には,受講聴衆者が700人ぐらい集まるのですけれども,そんな場でおっしゃってくださいました。
 だから,谷口先生やほかの人に支えられて約1,000種類ぐらい自動化機械を作りました。自動化のためにいろいろなものを設計し,組み合わせて調整するのは,結構人手も時間もかかります。
 苦労をして,それでお客さんにクレームを受けたりもしましたが,最後には,ベートーベンの第九のように,苦しみの後に歓喜に至るというものでした。あれほど口うるさく2~3年いじめられたお客さんから「梅原さん,あれで良かったんだ」とあちこちから言われるようになりました。
 乗り越えられた秘訣は,強いて言うと,人と人との信頼です。言うべきことはきちんと言うことです。自分のところの悪いところも悪いとはっきり認めることです。

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梅原 誠

梅原 誠(うめはら・まこと)

1939年 岩手県生まれ 1962年 東北大学工学部 精密工学科卒業 1962年 シチズン時計(株)入社 1989年 シチズン・マシナリー・ヨーロッパGmBH社長 1993年 シチズン時計取締役 1998年 シチズン時計常務取締役 2002年 シチズン時計(株)社長 2007年 シチズンホールディングス(株)社長 2008年 シチズンホールディングス(株)取締役相談役 2009年 シチズンホールディングス(株)特別顧問 2010年 同退任
●主な活動・受賞歴等
(財)日本卓球協会顧問 
(財)日本卓球リーグ連盟名誉顧問
在京岩手産業人会顧問
東北大学機械系同窓会名誉会長
岩手県奥州市大使
岩手県花巻市イーハトーブ大使
2001年 ドイツBaden Wuerttemberg州経済賞(団体)
2006年 藍綬褒章
2010年 岩手県「県勢功労賞」

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