【重要】技術情報誌『O plus E』休刊のお知らせ

決められたことではなく自分の思いどおりにやり手品の種を探してほしい東北大学名誉教授 清野 慧

発想の転換のきっかけは,遊び心

聞き手:これから工学分野において活躍を目指す研究者,技術者,学生に向けて,面白さ,魅力というのを教えていただきたいなと。

清野:私は大失敗をしたことがあります。3つの変位センサーを使って直線を測る方法で,これは,3つの変位センサーを直線に並べないと放物線の誤差になってしまいます。そうするのは簡単にできるよと,間違えたまま論文にして出してしまいました。それも,すんなり通ってしまったのです。
 後から,他の人から,「こんな問題があるよ,放物線が測れない」という指摘がありました。それで,気が付いて,「ああ,まずいな」と思いましたね。その学会誌に,「間違えました」という謝罪記事を載せていただきました。そこから,こんちくしょう!って思って頑張りました(笑)。おかげで,今の干渉計の校正法につながっていっています。失敗したのは,後にも先にも,その論文の発表のときだけですね。
 最近,学生がスマホばっかり見ていて紙の本を読まなくなったとよく聞きます。私は本を卒業生にあげます。一歩引いて見方を変えてみたりするのも必要で,そういうのには,本をたくさん読むことが一番ですからね。それも,別の世界,全く違うジャンルの本がいいと思っています。私は新幹線移動のときに,よく本を読んでいます。私はファンタジー小説が好きで『指輪物語』『ゲド戦記』や『ハリーポッター』なども,よく読んでいました。まあ,実際に読んでいて,あれを読んでいたから役立ったなというのは特にはないですけれど,見方を変えるきっかけにはなっていると思っています。
 ものづくりの魅力というのは,作ってみないと分からないことです。私は角度センサーが大好きなのですが,角度センサーというのは売っていないのです。変位センサーは売っていますけれど。なので,角度センサーを作れたら前に進めると思っています。
 変位センサーで何かいろんなことをやってみて,それを角度センサーに置き換えると,すごく精度が上がるのです。例えば,コロの直径の選別法ですけれど,コロの直径を高精度の変位センサーで測るだけでは,それほど精度は上がらないです。角度センサーで傾く角度を見ることで,分解能が上がります。
 私はずっと歯車をやっていたのでフーリエ変換になじんでいます。また学生実験で夜の11時までずっと付き合って,オートコリメーターをよく使っていたので,角度を測るということにも,すごくなじんでいました。たぶん,精密測定の他の方はそういう経験をされていないのでしょう。
 みんなが使えず,お金を掛けた人だけにしかできないというのは技術ではないと思います。正しく,広く使われるようになるのが技術です。それが,今の仕事にもつながっています。
 測定の定義というのは,ある量を,単位を使って何倍というものですが,その単位というのは物理定数(真空中の光速など)になりつつあります。もとは,長さの単位も光メートル原器が基準でした。重さはキログラム原器がそうでした。今はアボガドロ数を基に決めようとしています。
 私は,形状の基準は幾何学にしたいのです。それも簡単な,算数がいい。私は難しい算数を使わず,足したり引いたりするだけです。これを基準にしなさいという,世界が決めた直線,真円は,ものづくりの現場で扱いやすくしたい。単位の物理定数化をやっていることは,みんなが基準にアクセスできるのが理想だと,私はそう思っています。
 あと評価で人を縛るのは,辞めた方がいいと思います。先生たちもだし,学生たちもみんなが縮こまってよくないです。新しい発想が出てこない原因だと思います。それよりも,ものづくりの教育をちゃんとしてあげてほしいですね。機械系だったら工作機械,はんだごてを使えるようになること,それから光を使ったセンサーを作るという経験が必要だと思います。
 発想の転換というのは,何がきっかけになるのだろうと,自分でも思っています(笑)。これは,遊び心でしょうね。評価,評価で縛られていると出てきません。
 若い人たちには,決められたことをやらないで,自分の思いどおりにやってほしいと思います。そして,手品の種を探してほしいですね。精密測定は,なぜそうなるのだろうということは問わないで,なぜできないのだろうって問いかけることだと思っています。
清野 慧

清野 慧(きよの さとし)

1943年 京都府生まれ
1967年 京都大学工学部精密工学科卒業
1972年 同大学大学院博士課程期間満了退学
学位論文 REDUCTION OF VIBRATION AND NOISE OF SPUR AND HELICAL
GEARS 工学博士(京都大学)1975年11月25日
1972年 東北大学工学部助手
1993年 同大学教授
2007年 東北大学名誉教授
●研究分野
機械工学,生産工学・加工学,精密計測,光応用計測
●主な活動・受賞歴等
1998年 精密工学会高城賞 精密工学会賞(Award of JSPE)
2001年 精密工学会賞(Award of JSPE)
2003年 精密工学会沼田記念論文賞
2004年 精密工学会賞(Award of JSPE)
精密工学会フェロー

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