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日本では優秀な技術者は育つけれどもアーキテクトが育ちにくい名古屋大学大学院教授(電子情報システム専攻) 佐藤 健一

大きなブレークスルーを起こす技術が,光にある可能性が高い

聞き手:最後に若手研究者や技術者に向けてのメッセージをお願い致します。

佐藤:なかなか難しいですね。光は電気に比べて機能が非常に限られています。そして,光と電気の適用の境界も,時代とともに変わってきています。例えば昔は分散補償ファイバーを使っていた所で,今はデジタルのDSPを使ったりしています。光と電気の境界というのは常に動いています。一方電気の進歩が,いわゆるムーアの法則がそろそろ限界に近づいてきています。そういうときに,大きなブレークスルーを起こす可能性が,光にはまだあると考えています。例えば時間では無く波長の次元を自在に扱えるような技術が開発できれば,光領域で様々なことができるようになります。勿論現状のWDM関連技術では全く不十分です。
 アメリカでは,通信キャリアが光の研究をやめています。昔はAT&Tをはじめとしてそれなりに研究していましたが,今はもうほとんどやっていません。それだけではなく,システムベンダーでもアルカテル・ルーセントの北米ベル研究所でも光を研究している部隊の人数は,十数人程度ではないでしょうか。
 光通信機器もパソコンの様にできるだけ部分毎に規格を決め,組み合わせて作る方向に進んでいます。
 昔はキャリア自体が研究を推進し,投資をしてベンダーと一緒に物を作るという,ある意味でのエコシステムが機能していました。今はキャリアが手を引いてしまいました。変わって擡頭してきたOTT(オンザ・トップ),コンテンツプロバイダは光ファイバーやIT技術,半導体の進歩を最大限利用しているのですが,そこにソフトを組合せ,大きな投資を行い新しい価値を創造しています。しかし,その基礎となるハードに関わる部分の研究にはほとんど手を出しません。では,誰がやるかというと,あとはベンダーが自分でやらないといけない。やるとしても問題なのは,何をやるかということを目利きして判断して,そこに遅延なく巨額の投資をするということです。例えば新しいLSIのラインを作るのには莫大な投資が必要でしょうし,DSPにしても数十億円はかかります。そういう判断を迅速にできる人たちが日本に育っているかというと難しい状況にあると思います。
 ただ,さっきも言いましたように,ファイバー容量の進展ももう飽和しつつ有りますし,トランジスタもそうです。そこの所をブレークしていかないと次の発展が無く,直ぐには答えは出なくても,いろいろ考えていくことが必要です。グーグルの次を生み出す基をどう出したら良いのか,光でそれをどういうふうに,そこに光が役に立つ所があるのか,そういうことを何となくですが,いつも考えながらやっています。これは,アーキテクチャーにとどまらずパースペクティブを持ってビッグピクチャーを描くというのは,ある意味では外交と同じような所がありますが,日本は外交が弱いですよね。何か枠組みを新たに作って,その方向に世界をリードしていくという仕事は,すごく日本は弱いと思います。もちろん民族的なものもあるのでしょう。私は若いころ半年ほどBT(イギリスの大手電気通信事業社)に滞在しましたが,色々と異文化ギャップを感じました。私はグローバル化自体は好きではないのですが,それを受入れざるを得ないとすると,そういったギャップが解消される方向に進まないといけないと思います。今,少しずつですが始まっていると思います。例えば社内の会議を英語でやる日本企業が増えていますが,もうやらざるを得ない状況なのです。異文化のギャップを自らが意識して対処しない限り,自分たちの次のステップはないということを良く分かっているからだと思います。これは日本の文化をどうこうするということとは全く別次元のことです。
 光技術でも,個々の技術の完成度を上げていくだけではなく,アーキテクトとしての視点を鍛え,分野全体を見渡せる様になれば新たな方向を見いだせるのではないでしょうか。それをやるためには,アーキテクトというか,そういう視点を持った人をもっと育てなければいけないと思っています。

佐藤健一(さとう・けんいち)

佐藤健一(さとう・けんいち)

1953年 東京生まれ 1976年 東京大学工学部電子工学科卒 1978年 東京大学大学院工学研究科電子工学専門課程修士課程終了 1978年 日本電信電話公社横須賀電気通信研究所入所 1985年 British Telecom Research Laboratories交換研究員 1999年 NTT未来ねっと研究所フォトニックトランスポートネットワーク研究部部長 2004年 NTT R&Dフェロー 2004年 名古屋大学大学院教授(電子情報システム専攻)
●研究分野 光通信ネットワーク,光ネットワークシステム
●主な活動・受賞歴等
1984年 電子情報通信学会学術奨励賞 1990年 電子情報通信学会論文賞 1999年 IEEE Fellow Award 2000年 平成11年度電子情報通信学会業績賞 2002年 平成14年度文部科学大臣賞(研究功績者) 2003年 電子情報通信学会フェロー 2005年 電子情報通信学会通信ソサイエティ功労顕彰 2007年 電子情報通信学会通信ソサイエティ論文賞 2008年 電子情報通信学会通信ソサイエティ論文賞 2009年 ONDM 2009(The 13th International Conference on Optical Networking Design and Modeling - ONDM 2009)Best Paper Award. 2012年 電子情報通
信学会功績賞 2013年 CLEO-PR & OECC/PS 2013(The 10 th Conference on Lasers and Electro-Optics Pacific Rim, and The 18 th OptoElectronics and Communications Conference/Photonics in Switching 2013), Best Paper Award 2014年 紫綬褒章
IEEEフェロー
電子情報通信学会フェロー
NTTR&Dフェロー

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