【重要】技術情報誌『O plus E』休刊のお知らせ

光学は研究する余地はまだあるのでそれを見つけてどのようにやるかワシントン大学名誉教授 アルバート S 小林

計算でできることも,実際の現象とよく比較するのが大事

聞き手:日本のこれからの若い人たちに期待することやアドバイスはありますでしょうか。

小林:アメリカもですが,非常にファイナイトエレメントにみんな魅力を持っています。というのは,ファイナイトエレメントをやればすぐに結果が出るからです。ファイナイトエレメント過ぎて,その結果がいいか悪いかの判断もできない学生がいます。われわれもそうなのですが,あまりそっち方面へ集中していると,日本でいう“ものづくり”のときの結果が出ないわけです。アメリカ人もそうなのだけど,昔,実験は無視していました。30年ぐらい前,全部数値的にやると,結局それはできなくて,また実験に戻っていました。だから,解析したものと実際の現象とをよく比較して判断しなければならないと思います。今,アメリカではそういう傾向に変わりました。
 コンピューターの計算だけで論文を書いてしまうのですが,果たして合っているかどうかです。たくさんある前提がどれほど合っているかということを調べなければいけません。コンピューターは,それさえあれば何でもできますから便利です。私もそう思います。コンピューターでこんな結果が出て面白いなと思います。だけどやっぱり,最後には実際に合っているかどうかを調べなければいけないです。今は大計算をやりますから,とても考えられないような問題を実際に解析するわけです。コンピューターも性能が上がって便利になっていいですけど,ある程度実際とチェックしなければなりません。これまでだったら全部実験でやらなければいけなかったことが,ある程度計算で「こうかな?」というふうに見えるようになったことはいいと思います。ある程度どころか,そうとうできるようになりました。実験ではできないようなことが計算でできますから,果たして前提が正しいかどうかというのを見極めなければなりません。
 バイオエンジニアの話になりますが,生体のバイオエンジニアをやると計算が難しくて,バウンダリー・コンディション自身,わからないです。それと材料の特性,レスポンスが全然わからない。

聞き手:日本ではバイオ関係の研究はお医者さんと組んで行いますが,研究へのアプローチが違ったりすることで,お医者さんとの間の意思疎通などで難しいと感じられたことはありましたか。

小林:私は,お医者さんもエンジニア的になってきたと思います。エンジニアがお医者さんになったり,ロイヤーになったりするようですが,そういう人たちとはだいぶん意思が通じます。研究の話になってしまいますが,私の元のPh.Dの学生が医学部のリサーチディレクターになったのは,エンジニア的にいろんな解析をするということからです。私がバイオエンジニアを始めたときは材料特性なんかは全然わかっていませんでしたから,もう“guess”でしかありませんでした。

聞き手:光学の魅力はどのようなところでしょうか。

小林:昔はよくきれいなイメージが出たりするのでそれが魅力でしたが,結局,光学自身がディフラクションリミテッドとかいろいろありますから,そういうことで研究する余地があると思います。ナノになってしまうということで。そういう関係で必ずしもわれわれの見ている光ではなくて,ほかの小さいウェーブに相当するものを開発できます。光学はvisible lightだけど,それだけではなくて,同じ原理がナノとかそういうところに使えるようになっていますから,いわゆるファンダメンタルにはまだ余地があると思います。それを見付けて,どういうふうにやるかということです。全部わかりきっているということでは,全然ないですから。 <次ページへ続く>
ALBERT S. KOBAYASHI (あるばーと・さとし・こばやし)

ALBERT S. KOBAYASHI (あるばーと・さとし・こばやし)

1924年12月9日 シカゴ生まれ 1947年9月 東京大学工学部卒業 1947-1950年 小西六株式会社にて生産設計技師 1952年3月 Washington大学 工学部機械工学科修士 1953-1955年 Illinois Tool Works(Chicago)にて設計技術者(高度歯車解析) 1955-1958年 Illinois工科大学Armor Research Foundationの研究技術者(実験応力解析) 1958年6月 Illinois工科大学から博士号 1958年8月 Washington大学工学部機械工学科助教授 1958-1976年 Boeing Aerospace Company顧問 1961年9月 Washington大学工学部機械工学科準教授 1962-1982年 Mathematical Sciences Northwest顧問(構造解析と破壊力学) 1965年9月 Washington大学工学部機械工学科教授 1974-1978年 AFRPL(米空軍ロケット推進研究所)顧問 1984年11月 U.N. Development Program国連開発計画局(UNDP)顧問 1986年1月-1986年6月 Office of Naval Research(米海軍研究事務所ONR)顧問 1988年-1995年 構造力学のBoeing Pennell Professor 1989-1990年 SEMの会長 1997年7月 Washington大学工学部機械工学科名誉教授
●研究分野
破壊力学,実験応力解析,有限要素解析
●主な活動・受賞歴等
National Academy of Engineering (技術アカデミーNAE)会員 American Society of Mechanical Engineers(米国機械学会ASME)フェロー Society of Experimental Mechanics(実験力学会,以前はSESA,現在はSEM)生涯名誉会員,1989会長 American Academy of Mechanics,Sigma Xi and Tau Beta Pi会員 1973年 F. G. Tatnall 賞 1981年 B. J. Lazan 賞 1983年 R. E. Peterson賞 1983年 William M. Murray Lecture Medal 1991年 JSMEから第一回の材料力学部門賞 Burington Resources Foundation教授功績賞 1995年 M. M. Frocht 賞 1995年 ASEE General Electric Senior研究者賞 1997年 勲三等旭日中綬章 1997年 日系アメリカUW Alumni ClubからAlumni功労賞 2006年 ワシントン大学機械工学科の栄誉殿堂入り 2007年 ASME Daniel Drucker Medal 2010年 ASME Nadai Medal 2013年 ワシントン大学工学部 Diamond Award

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