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常に1つのことを突き詰める,そして時々それを俯瞰し視点を変えて,新たなトライアルをしながら一貫して前進して行く東京大学 荒川 泰彦

世界をけん引するプロジェクト「FIRST」

聞き手:量子ドットレーザーの今後の研究展開についてお教えください。

荒川:2000年ごろから,経済産業省や文部科学省による国家プロジェクトの話が出てきました。これにはいろいろ伏線があります。1996年ごろから私が中心となって光テクノロジーロードマップを光産業技術振興協会で策定を開始しました。一方,1996~97年ごろにJEITAで,俯瞰的な視点で全体の技術の領域を見て方向性を定め,ロードマップ的俯瞰の下でエレクトロニクス全体の国家プロジェクトをやるべきだという,田中昭二先生(故人)や主たる電気系企業の役員と一緒に提言を出しました。
 そうした流れの中で,2002年に文部科学省のプロジェクト「ナノ光電子デバイス」と,経済産業省のプロジェクト「フォトニックネットワーク技術開発」の2つが,省庁間連携の連携国家プロジェクトとして始まりました。ナノエレクトロニクス連携研究センターを生産技術研究所に設置して,新しい形の産学連携の研究開発を開始したのです。その中にはいろいろなテーマがありましたが,その中の1つの目玉として量子ドットレーザーの開発が含まれています。参画企業は,NEC,日立製作所,富士通研究所でした。
 2000年ごろというのは,それ以前は光はとても調子が良かったのですが,バブルがはじけて大幅に落ち込んだところでした。富士通やNECも量子ドットレーザーの研究開発を行っていましたが,企業としてのプロジェクトを継続することは非常に難しい状況でした。そういった時に国家プロジェクトが始まったのです。特に富士通研との連携が緊密であり,現在QDレーザ(株)社長で当時富士通研で量子ドットレーザー研究グループを率いていた菅原充さんには,客員教授になってもらいました。その結果,2004年には,1982年にAPLで予言した,温度安定性の良い量子ドットレーザーを実現することができましたが,これが1つの大きなエポックメーキングになったと思います(図1)。
2002年に富士通研究所と共同で実現した量子ドットレーザにおける閾値電流の温度無依存

2002年に富士通研究所と共同で実現した量子ドットレーザにおける閾値電流の温度無依存

 そして,この技術は実用になり得るだろうということで,2006年にQDレーザー社が富士通のスピンオフカンパニーとして発足しました。2002年から始まった文科省のプロジェクトと経済産業省のプロジェクトがきっかけになって,このQDレーザー社が発足したといえます。そのプロジェクトは全体として5年プロジェクトでしたから,2002年に始まって2007年の3月に終わりました。
 一方,2006年度から新たに文部科学省として,さらに大きなプロジェクトが始まりました。それが「先端融合領域イノベーション創出プログラム」という拠点形成プログラムであり,ここで「ナノ量子情報エレクトロニクス研究拠点」という今も続くプロジェクトが発足しました。これは10年プロジェクトで,その1つの大きな柱が量子ドット技術であり,量子ドットレーザーを中核にさらに発展を期すということです。総額およそ60億円規模のプロジェクトで,これに企業からのマッチングファンドがつきます。参加企業は,先ほどの3企業とシャープ(株)です。また2002年のプロジェクトでは,量子ドットレーザー以外にも量子暗号や量子コンピューターに向けた量子単一光子発生装置等の開発も開始しました。素子開発などをするための基礎的な準備を行うことも含まれていました。この研究領域についても,システム実験を含め先端融合プロジェクトでさらなる発展を目指してきています。
 また,先端融合プロジェクトでは,フレキシブルエレクトロニクスや,量子ドット大雨用電池,センサー用量子ドットの光検出器などもターゲットに入れて研究開発を行っています。
 量子ドットレーザーについては,順調にQDレーザー社での展開が行われており,2011年ごろから市場化がなされ,2013年の時点で150万個以上の量子ドットレーザーが市場に出ました。
 また,2009年に最先端研究開発支援プログラム,いわゆるFIRSTのもと,光電子融合プロジェクトを始めました。これはLSIの将来のあり方を考えた時に,コンピューティングシステムでのLSIチップ間通信において,光インターコネクションが必要となる時期が間もなく来るであろうということで,それに対する基盤研究と,システムデモンストレーションを実現しようというプロジェクトです。
 FIRSTプログラムでは,5年間のプロジェクト開発を産学連携で推進し,システムデモンストレーションとして,光インターコネクション集積システムの世界最高の帯域密度伝送を実現しました。また,プロジェクト最終段階で,量子ドットレーザーを搭載した光集積回路を実現し,全く無調整で125℃まで高速光伝送を達成しました(図2)。
量子ドットレーザー搭載型シリコン光インターポーザにおける125℃までの無調整光速光伝送動作の実証(FIRSTのプロジェクトの成果)

量子ドットレーザー搭載型シリコン光インターポーザにおける125℃までの無調整光速光伝送動作の実証(FIRSTのプロジェクトの成果)

 いよいよLSIと光の融合が始まる時代になってきて,しかも量子ドットレーザーを搭載することにより,世界をけん引する「FIRST」プロジェクトを実施できたことは,大変意義のあることではないかと思います。このプロジェクトでは,組織の壁を乗り越えた連携開発がキーとなっていました。 <次ページへ続く>
荒川 泰彦(あらかわ・やすひこ)

荒川 泰彦(あらかわ・やすひこ)

1975年 東京大学工学部電子工学科卒業 1980年 東京大学工学系研究科電気工学専門課程修了 工学博士 1980年 東京大学生産技術研究所講師 1981年 東京大学生産技術研究所助教授 1984年から1986年 カリフォルニア工科大学客員研究員 1993年 東京大学生産技術研究所教授 1999年 東京大学先端科学技術研究センター教授(2008年まで) 2006年 東京大学ナノ量子情報エレクトロニクス研究機構長 2008年 21・22期日本学術会議会員 2012年 東京大学生産技術研究所・光電子融合研究センター長
●主な受賞
1991年 電子情報通信学会業績賞 1993年 服部報公賞 2002年 Quantum Devices賞 2004年 江崎玲於奈賞 2004年 IEEE/LEOS William Streifer賞 2007年 藤原賞 2007年 産学官連携功労者 内閣総理大臣賞 2009年 IEEE David Sarnoff 賞 2009年 紫綬褒章 2010年 C&C賞 2011年 Heinrich Welker賞 2011年 Nick Holonyak,Jr.賞 2012年 応用物理学会化合物半導体エレクトロニクス業績賞(赤崎勇賞) 2014年 応用物理学会業績賞

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