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日本の光学産業が沈黙した羊の群れのように見える矢部 輝

楽しみで問題点の把握にもなるIODCのレンズ設計問題

聞き手:矢部さんとIODCのレンズ設計問題とのかかわりをお聞かせください。

矢部:IODCのレンズ設計問題は実用とはかけ離れていて誰も経験したことのないような設計条件で,しかし設計条件と評価の方法は厳密に定義されて出題されます。ですから特定の分野での設計経験に依存しない純粋な設計能力が競われるわけです。IODCの半年位前に出題され2月位前に締め切られ,会期中の水曜日の夜に結果が発表されます。私は1990年からの問題を知っていましたが,自分で解いたのは1998年が初めてでした。1994年まではグローバル最適化の方法を知らなかったので,自分で解くのは大変だったのです。 1998年の問題はグローバル最適化の適用例として適当でした。そして結果は全体の5位でグローバル最適化の効果を実証するのに十分でした。その後2002年が3位,2006年が1位と順調に推移しましたが,2010年は答えを探す範囲が狭すぎで4位でした。2014年は問題が出題中で,結果は6月にわかります。IODCのレンズ設計問題はコンテストに参加する楽しみと同時に設計ソフトの能力を測る問題の宝庫です。私は1998年の論文発表で1990年の設計問題を例題にしましたし,先ほど触れたように1985年の問題を解いて一つの論文発表をしました。また最近,1998年と2002年の問題をもう一度解いてみましたが,どちらも当時の1位を超える解を得ることができました。これはこの期間における設計ソフトの能力向上を実証するものです。

聞き手:たびたびお話に出るエスケープ函数によるグローバル最適化ですが,非常に強力なもののようです。

矢部:そうです。しかし業界全体で見るとその評価は必ずしも高くはないかもしれません。エスケープ函数によるグローバル最適化の考え方は非常に簡単で1行の式で表現できます。その式も高校の数学レベルで理解できます。インプリメンテーションも容易なので多くのソフト開発者がこの方法を試してみたはずです。そして「なんだ,大した効果はないじゃないか」とかなりの人が思ったと私は推測しています。しかし大した効果がなかった時,その開発者は自分のソフトのローカル最適化能力を疑ってみるべきだったのです。エスケープ函数によるグローバル最適化はローカル最適化の繰り返しで構成されていて,特に一つのローカルミニマムから脱出する時に最適化の難しい領域を通り抜ける必要があります。ここをすんなりと通り抜けるのがローカル最適化の能力の高さなのです。 私はエスケープ函数のインプリメンテーションを通してローカル最適化の能力を非常に向上させることができました。またレンズ設計者がこのグローバル最適化を試しに使ってみた時,多くの設計者が「なんだ,大した効果はないじゃないか」と思ったはずです。しかしこの時,その人は自分の用意したメリット函数の有効性を疑ってみるべきだったのです。本質的なレンズの性能を適切に表現していないメリット函数の場合,意味のないローカルミニマムがあちこちに発生することになります。たとえて言えば,全体としてみればなだらかな丘陵地帯なのに,岩だらけの地面を苦労して進んでいくようなものです。エスケープ函数を用いた方法に限らず,グローバル最適化ではメリット函数の適切な表現が非常に大切なのです。 <次ページへ続く>
矢部 輝(やべ・あきら)

矢部 輝(やべ・あきら)

1953年岩手県生まれ 1978年東京大学物理学科卒業 1978年富士写真光機入社
2003年富士写真光機退職 現在は,独立のレンズ設計者として活動
●研究分野
応用光学,光学設計

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