【重要】技術情報誌『O plus E』休刊のお知らせ

「緊急ではないが将来に重要となることを研究する」中央研究所浜松ホトニクス 常務取締役 中央研究所長 原 勉

浜松を光の尖端都市に

聞き手:光学分野を目指している学生や若手の技術者のかたに,光の分野の魅力やメッセージをお聞かせください。

:光は基礎から応用研究までいろいろなことができる分野です。例えば,基礎にしても,フォトンが波で伝わってきて瞬間的に一点の粒になり,それがどの瞬間,どの部分で変わるのかということすらわかっていません。そのような基礎研究から,さまざまな産業にかかわる応用研究まで幅広く研究テーマは存在します。本当に光の技術がなくなると,なかなか成り立たないような産業とか研究がいっぱいあります。ですから,光にかかわっておくと,将来いいのではないかと思います。
中央研究所研究棟

中央研究所研究棟

 逆に,国のほうでも光に特化したような,もう少し大きなプロジェクトをやってほしいと思っています。ヨーロッパやアメリカではかなり行われています。日本でも国がもう少し考えていただけると,良いのですが。
 あとは,本当に一生懸命研究してほしいですね。例えば,私は光コンピューターをひたすらやってきましたが,光コンピューターはまだできてないし,いつになるかわかりません。しかしながら,若いころに研究していたホログラムの技術,位相補償(アダプティブ・オプティクス)の技術は,今,実際に産業に使われています。ですから,光に関する研究はしっかりやっておけば,それ自体はモノにならなくても何かに転用されて重要になる時代も来るはずです。
 これは社長の受け売りですが,自動車産業などでは頂点に,自動車メーカーがあり,その下に下請けがあるピラミッド構造です。
ところが「光産業」では,弊社のような企業が一番下にあって,いろいろな応用技術が積みあがっていくことになります。だから,いかにこの応用を広げていくのかが重要で,そのためにベンチャーの育成などが必要であると考えています。
 そこで昨年の6月11日に,“浜松を『光の尖端都市』に?浜松光宣言2013”(Establishing Hamamatsu as a Preeminent Photonics City: Photonics Declaration 2013 in Hamamatsu)の調印式が,静岡大学 伊東学長,浜松医科大学 中村学長,光産業創成大学院大学 加藤学長および浜松ホトニクス 晝馬社長の四者により浜松市内のホテルで執り行われました。光には無限の可能性がありますが,人類は未だ,そのほんの一部しか利用していません。光の本質を解明すること,そして光を自由に操ることへの挑戦を続けることこそ,光科学と光産業を共に発展させる駆動力である,というこれまでの弊社の経営トップの考えを浜松に“光の拠点”を作ることで大きく発展させたい,との思いがこの宣言に込められています。
 世界トップレベルの光の研究開発を進めて,それを産業に結びつけることで,世界中の光の研究者・技術者に,浜松に一度は行くべきだと考えてもらえる拠点となりたいものです。1926年に浜松の地にテレビジョンが誕生しました。それから100年後の2026年に,光の尖端都市浜松で何かが誕生するように頑張りたいと思います。 59_9  弊社では経営トップが,10年先,20年先の夢と哲学を簡単な言葉で語ります。ですがこれは我々には無理難題にしか聞こえません。例えば「考える光コンピューターを作れ」といったものです。考えるコンピューターが実現できれば株価の予想などさまざまな複雑系の解明が可能になるというものです。
 しかし,当時私が研究していたテーマは光コンピューターや空間光変調器で,考えるコンピューターではありません。しかしそこで,できませんといえば「光変調器の研究もやめてしまえ!」と言われてしまいます。そこで光変調器から何を開発し,どう発展して行くかを考えることが重要になります。
 当時悩んでいる私に,社長が掛けてくれたのは「おれはあの富士山頂を目指す。だけど,もし途中,三保の松原で天女に会って天女と恋におちたらそれでもいい」という言葉でした。はじめは厳しいことを言うのですが,最後はほっとさせてくれるのです。具体的にこういうことをやれということは一切ありません,自分たちで考えさせて新しい成果を模索して行く。実際に山頂まで行かなくても三保の松原の天女でもいいというのは,自分自身で決めた目標を達成するという高いモチベーションにつながっていると思います。
原勉(はら・つとむ)

原勉(はら・つとむ)

1952年静岡県浜松市出身 1974年金沢大学工学部電気工学科卒業 1976年金沢大学大学院工学研究科電気工学専攻修了 1976年テスコ株式会社入社研究部技術管理課(特許管理業務に従事) 1979年テスコ株式会社退社 1979年浜松ホトニクス株式会社入社(空間光変調器、光学結晶・光学薄膜、光情報処理、光計測の研究開発に従事) 1990年中央研究所発足/中央研究所第4研究室室長代理 1991年工学博士(金沢大学) 1993年中央研究所第4研究室長 2005年静岡大学客員教授(現任) 2006年中央研究所所長代理 2009年取締役就任 2010年中央研究所長(現任) 2011年~浜松電子工学奨励会理事(現任) 2011年~浜松テクノポリス推進機構理事(現任) 2011年次世代レーザープロセッシング技術研究組合監事(現任) 2011年日本学術振興会179委員会副委員長(現任)2012年常務取締役就任(現任)
現在、常務取締役,中央研究所長
●主な受賞歴等
2012年高柳記念賞

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