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いろいろな方々のアイデアを結び付けてポリマーを電話で合成する電気通信大学 学長顧問 宮田 清蔵

イノベーションを起こすにはリスクも必要

聞き手:最後に若手技術者や学生などに向けてメッセージをお願いします。

宮田:そもそも理系分野に進む人が減っているのが気掛かりです。私は西東京市の教育委員もしていますが,小学校の卒業式に呼ばれた時などに将来何になりたいのかを尋ねますと,野球の選手,サッカー選手,スケート,それからパティシエと答えます。科学者になりたいなんてゼロです。
 これは大きな問題ですから,今JSTに働きかけて,科学技術がいかに面白いかという漫画を作ってもらおうと考えています。小さいときこれは面白そうだと思わせて,やはり実験をしてもらうことが必要だと考えています。いまは,危険だからとつまらない実験しかさせていない気がします。だからもうちょっと面白い実験を体験させたいと思っています。教職員の人たちも,理科が面白いと思っている人は,大企業や研究に進んでしまったために,理科の面白さを上手く伝えられる人が少ないように思います。  小さいときから基本となる面白さや体験を教えて行かないと,高校で急に面白さを説いても,モチベーションが上がらないのではないかと思います。科学技術の面白さとか,あこがれとか,夢とか,そういうものを子供たちに伝えていくことで,将来のイノベーションが起きるのではないかと思っています。
 また一言で,イノベーションといっても論理的な思考から出てくる延長上のイノベーションというのはたかが知れている気がします。もう少し奇想天外なものに対しても,許容性がないとあっと驚くようなイノベーションというのはでき難いんじゃないかと思っています。
 先程のハイドロフォンでもそうでしたが,アメリカでは,かなり基礎的な研究にも陸海空の三軍がお金を出します。ばかなような,一笑に付すようなことであっても,面白いと思えばアメリカでは研究の費用が出てくるわけです。その結果の1つがインターネットとして,われわれの生活になくてはならないものになっています。でも日本では,一見荒唐無稽だとお金が出てきません。これは大きな問題です。
 日本では,第1次科学技術基本法で,今までの4期で100兆円ぐらいを技術振興に使いましたが,最近産業がよくなったのは,技術振興の成果よりも円安の影響です。
 アメリカでは,マイクロソフトが誕生してものすごい雇用が増えましたし,スティーブ・ジョブズだけで,何十万人という雇用ができているわけです。そういうものこそが,まさにイノベーションだと思うのですが,日本では残念ながら出てきていません。かつてのソニーや松下電気産業では,イノベーションを起こして雇用を何万人も増やしてきました。それが,なぜ出来なくなったかといえば,リスクを冒さないことが原因だと思っています。これは企業や経営者だけではなく,若い人たちにも言えることです。
 東大へリスクを減らすために進学しているような人,何かというと,できるだけいい学校に行って大会社へ就職するような考えの人が増えています。そのような考え方をしていると,たとえば自分でベンチャーをおこしてもつぶれる確率が大きい。最初は良くても企業を持続させるのは,次から次へとヒットを出さなければいけませんし,そのために大変なリスクを冒すことになります。だから,先の見える優秀な子はベンチャーなんてやらないのです。
 ソニーや松下電気産業がイノベーションを起こしたころは,戦後の混乱もあって誰もが食うや食わずでしたから,何をしてもよかったわけです。そういう社会情勢があったから,優秀な方々がリスクを冒してイノベーションを作れたけれども,いまは優秀な人だと損をしないで済むので,なんでそんなことをするのかということです。 remark56_6  研究者の方には,視野や考え方を広げることも必要です。私は発明特許を100数十持ち,今でも月1つぐらい申請しています。日ごろ不便だなと思うものや,頭に浮かんだことを,特許検索してなければさらに特許事務所で調べてもらい,それでもなければ特許にと,とことんまで調べてるのです。
 あまた,古い技術でも新しい技術で見直すことでも大特許となる可能性があります。たとえばレコードは,CDに押され50年以上研究されていませんでした。ですが私は,最新のナノテクノロジーを応用して,最高音質のレコードを作ろうというプロジェクトを国から研究費をもらって進めています。
 レコードのように衰退したと思われていても,実際には小さくてもきちんと市場がある分野を,今の技術者や企業は目を向けていません。でも,最先端の技術で見直すと大きくレベルアップが可能になり,市場が広がると思っています。ただ,それが本当にお金になるかどうか,世の中のためになってというのは別の問題で,かなり難しくて何とも言えないのですが。
宮田清蔵(みやた・せいぞう)

宮田清蔵(みやた・せいぞう)

1941年東京都生まれ 1969年東京工業大学大学院 博士課程修了 1969年東京農工大学工学部 講師 1970年東京農工大学工学部 助教授 1984年ベル研究所 客員研究員 1986年東京農工大学 教授 1995年東京農工大学大学院 生物システム応用科学研究科教授・科長 2001年東京農工大学長 2005年(独)新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)シニアプログラムマネージャー 2008年電気通信大学 監事 2013年電気通信大学 学長顧問
●研究分野
金属生産工学,高分子物性・高分子材料,科学教育,応用光学・量子光工学
●主な活動・受賞歴等
1985年高分子学会賞 受賞 2002年高分子科学功績賞 受賞 2004年フランス教育功労章オフィシエ 受勲

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