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いろいろな方々のアイデアを結び付けてポリマーを電話で合成する電気通信大学 学長顧問 宮田 清蔵

分子を規則正しく曲げて世界記録達成

宮田:農工大ではポリフッ化ビニリデンという材料の研究に取り組みました。ポリフッ化ビニリデンにはフッ素分子が含まれますが,このフッ素分子を全部同じ方向に向けることで圧電性になるという論文を読み興味を覚え博士課程の時代に行っていた高圧力下における結晶化を試みました。すると当時の世界記録がパッと出てしまい,一躍皆さんに注目されるようになりました。そこで,フッ素の代わりにもっと電気陰性度の高いようなものは何かと考え,CNを含むポリビリニデンサイアナイドというポリマーに着目しました。ただこのポリマーは極めて不安定でしたので,酢酸ビニールとの共重合で安定化しました。それをうまく引っ張ったところで非常に高い圧電性があることを,世界で初めて発表して,さらに注目されたのです。  圧電性には,大きく分けて伸びるものと厚み変動するものと2種類があります。ポリフッ化ビニリデンは,電圧をかけると伸びます。シアン化ビニリデン/ビニルアセテート1対1共重合体は厚みの変化,すなわち振動します。高周波であれば超音波が出るわけです。超音波診断の装置などに応用されていますが,当時ハイドロフォンを研究していたベル研究所が目を付けました。ハイドロフォンというのは水中の音を聴くもので,当時研究目的は全く分からなかったのですが,後で潜水艦の探知機としての研究だったことが分かりました。
 小さな音を効率よく聴くためには,センサーの音響インピーダンスを海水の値に近づけて,音が反射しないようにする必要があります。海水の密度によりちかい高分子の素材なら,弱い超音波も感知することができます。つまり遠くにいる原子力潜水艦が出す小さな音でも聞くことができるわけです。それまではアクティブソナーという,相手に音をぶつけて反射で探索していました。音を出しているわけですから,向こうもこちらの位置が分かってしまいます。ですが,ハイドロフォンであれば向こうが探知できないような遠距離から,スクリュー音などを拾い,音響解析で敵味方を判断してより有利な状況を作り出せるわけです。そういった研究を米国のベル研究所では行っていました。
 後に農工大の学長に就任した時にはさまざまな式典に招かれましたが,あるとき海上自衛隊の式典に呼ばれまして,そこでトップの方に20年前にこういう研究をしていたんですと言ったらものすごく驚かれました。実はその研究はトップシークレットで,ソ連が崩壊して緊張が無くなったので,ようやく米軍から情報提供されたというのです。その基礎研究を行っていたのは,私だったわけです(笑)。
 その後,文部省の在外研究員としてカリフォルニア工科大学に行きました。せっかく行ったのだからと,いろいろな研究室を回って歩きました。その中に『光エレクトロニクスの基礎』という著書でも有名なヤリーヴ先生の研究室があり,そこでは非線形光学の研究をしていました。
 非線形光学を示す材料ですが,構造的には双極子モーメントが一方的にそろっている材料なのです。それは私がやってきた圧電材料と同じだと思い,一生懸命その勉強をしました。ヤリーヴ先生が書いた本を読み,数学なども人に聞いたり本を調べたりしました。その時感じたのは,自分で数学とか物理を展開するのは難しいけど,人がやったものをフォローするのは大した手間ではないなと。それまでは物理や数学が苦手という感じでしたが,勉強してみればできるというイメージに代わりました。
 当時,日本では有機の非線形光学の研究を行っている人は全くいませんでしたが,日本化学会をはじめとして注目を集め,ナショナルプロジェクトを立てようということになり,文部科学省の非線形光学プロジェクトの,プロジェクトリーダーを務めることになりました。これは非常に基礎的な研究でうまくいき,その後に経産省のプロジェクトにもなりました。そういったところから非線形光学を中心とした,いろいろな光学素子の問題に取り組んで行ったのです。
 たとえば,有機ELの薄膜の製造にLB法という方法があります。これにはステアリン酸という単純な分子が使われていましたが,素子の高性能化にはより複雑な高分子で薄膜を作る必要がありましたが,分子間相互作用が強いのでうまく膜が作れていませんでした。そこでいかにうまく分子を並べるかということに知恵をしぼり,ある学生のアイデアから特許を取りました。そうして今でいうベンチャー企業を興しまして,一時,世界シェアの8割ぐらいを押さえるぐらいになりました。ただ,世界のシェアを取りすぎたのとあくまでも研究用の設備で,生産設備にはならなかったため10年ほどでつぶれてしまいましたね。
 今は,JSTのプログラムオフィサーとして『ポリマーフォトニクス』プロジェクトに関わっています。これは全部で5つのテーマがあります。最初の3年ぐらいが極めて基礎的なもので,その基礎を特許化し技術にするのに3年をかけ,残りの4年間では企業にも50%ファンディングしてもらい実用化を目指します。このプロジェクトは,JSTが今から5年ほど前から始めたもので,ベーシックサイエンスから応用までを10年間支援し続けて新しいイノベーションを起こそうという試みです。 <次ページへ続く>
宮田清蔵(みやた・せいぞう)

宮田清蔵(みやた・せいぞう)

1941年東京都生まれ 1969年東京工業大学大学院 博士課程修了 1969年東京農工大学工学部 講師 1970年東京農工大学工学部 助教授 1984年ベル研究所 客員研究員 1986年東京農工大学 教授 1995年東京農工大学大学院 生物システム応用科学研究科教授・科長 2001年東京農工大学長 2005年(独)新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)シニアプログラムマネージャー 2008年電気通信大学 監事 2013年電気通信大学 学長顧問
●研究分野
金属生産工学,高分子物性・高分子材料,科学教育,応用光学・量子光工学
●主な活動・受賞歴等
1985年高分子学会賞 受賞 2002年高分子科学功績賞 受賞 2004年フランス教育功労章オフィシエ 受勲

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