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研究というのはできないことに挑戦していくほうがいい東京電機大学 工学部 機械工学科 先端機械コース 教授 堀内 敏行

何度も繰り返すことで道は開ける

聞き手:研究で困難に直面したときの解決法をお教えください。

堀内:とにかく何回もやってみるということでしょうか。それ以外にないと私は思っています。私の授業のキャッチフレーズは「百錬自得」という言葉です。何だかわけが分からなくても100回練習していれば自然に分かるということなのですが,実はこれ剣道の大先生のお言葉を使わせていただいているんです(笑)。滝澤先生という範士九段の先生が厚木におられたのですが,先生の道場の額や厚木市剣道連盟の手ぬぐいにこの言葉が書かれています。
 剣道はもう40年以上続けています。NTTをやめるとき,退職の説明会で「仕事以外にも大小合わせて10個ぐらい趣味を持たないとやっていけませんよ」と言われたこともあり,友達やつながりを維持するためになんとか続けています。もっとも,最近は月1回できるかどうかというぐらいなのですが。
 研究は難しいというか,どうなるか分からないからやるのであり,思うようにできないから,どうしたらできるかを考えるのです。ですから,学生には,一回二回やってできるようなことなんて研究じゃないといつも言っているんです。うまくいかなかったら,もう一回やってみる。もう一回やって全く同じことが起きたならば,やり方自体は間違っていない。毎回違っていたら,やり方が間違っているから,そこを振り返らなきゃいけない。その繰り返しで何回もやっていくと,できるようになるんです。
 リソグラフィというのはレジストという感光性の材料を使い模様を作るのですが,そのレジストがきちんと塗れないことが結構起こるんです。学生さんにレジスト塗りをやってもらうんですが,なかなかきれいに塗れないんです。それどころか,シリコンウエハが,レジストをはじいて塗れないというケースもあります。4月から研究が始まっているのに,夏休みぐらいになっても塗れないということもありました。着任して何年目かに大学院生が入ってきたときにそれが起きまして,研究が全く進まず非常に困りました。
 9月ぐらいになってもまともに塗れなかったんです。いろいろな所に話を聞いたり,レジストが専門の友達に相談したりもしましたが,うまく解決しない。何回も何回もいろいろ試して,ようやく強アルカリの現像液で最初に洗うことで解決できました。今では,そのままきれいに塗れるかもしれないのに,学生みんながその液でウエハを洗ってからレジストを塗っています(笑)。
 その子の粘りで,今のうちの研究室があるのかもしれません。当時は線幅が1μm程度の微細パターンを作るときには,膜厚が1μm程度のレジスト膜を塗っていたのですが,微細なパターンの作製にはレジスト膜を薄くしたほうがいいと考え,レジストを薬剤で薄めて塗ることにしました。薄くするというアイデアは良かったのですが,薄くしたら全然塗れなくなったのです。その問題の解決には時間が掛かりましたが,薄く塗れたおかげで,顕微鏡を改造した自作の露光装置を用いて,当時としては相当小さい,0.3μmぐらいのパターンを解像できました。レジストが薄くなるほど高解像になるということが分かり,おかげさまでその学生は成果が出て,応用物理学会で発表させていただいた結果,新聞にも取り上げられました。まさに災い転じて何とやらです。一躍学生はヒーローになりました。ですから,今うちの学生が何度も失敗してつまづいた後,何とか解決してくれる礎は,その学生がそこでつまずいてくれたおかげかもしれません。
 今もつまずく子が結構居るんですが,おだてたり,ちょっと手伝ったりしながら,とにかく何回もやってごらんと指導しています。何か物事が起きるのは必ず理由があるのだから,その理由を突きとめるためには,自分なりの道筋を付けていくことが必要かなと思っています。一人でやっていると,落ち込んでしまったり,閉じこもったりする子もいますから,その辺を助けてあげたり,学部生は必ずペアにしたりしています。卒業後に会社で人と話ができないと困りますから,そういう意味もあり,できるだけ学部生は2,3人のチームにしています。
 最近も装置の光軸が真っすぐにならないという問題がありました。装置を一度分解して組み直したら復元できない。何カ月も直らずに「先生,何回も何回もやりました,でも,もうずっと同じです」と言うんです。私は「同じことをやっているようでも,どこか違っていることが分かるかもしれないから,とにかく細かなことでも,できるだけ何をやったかずっと全部書いておいて」と言いました。光学部品が5,6個ありましたから不都合を生じる組み合わせは結構沢山あります。何度もやったことを記録しながら,何回も手順を見直して,そして部品が再現性よく位置決めできるように部品や装備を改良して,やっとのことでようやく光軸がまっすぐになりました。そして,軸出しをある程度の時間で再現性良く行えるようになりました。
 また,飛翔ロボットでは,突然落っこちるという現象が起きました。急にモーターが止まって落ちてしまい,いろんなところが壊れてしまう。原因はモーターが焼き付かないように,モーターがある温度以上になると停止する回路が組み込まれていたんです。それが分かるまでにちょっと時間が掛かりました。あんまり深刻な事態ではなかったのですが,お金と通信販売の発注依頼が大変でした。学生が,1個3,800円のモーターを毎週のように「何個買ってください,何個買ってください」って言って来るんです。4,5個ぐらいしか在庫がないモーターを,仕入れが済まないうちにまた発注していましたから,業者さんをいくら儲けさせていたのか分かりません(笑)。 <次ページへ続く>
堀内敏行(ほりうち・としゆき)

堀内敏行(ほりうち・としゆき)

1948年 神奈川県生まれ。1970年東京大学工学部機械工学科 卒業。1970年 日本電信電話公社入社。1997年 東京電機大学 工学部 精密機械工学科 教授。現在,東京電機大学 工学部 機械工学科 先端機械コース 教授。
●研究分野:光リソグラフィ,マイクロ部品製作技術,小型飛翔ロボット
●現在,電気学会 リソグラフィ次世代技術調査専門委員会 委員長。応用物理学会 シリコンテクノロジー分科会 幹事。精密工学会 代議員。国際シンポジウム フォトマスクジャパン 組織委員会 委員長。

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