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科学の面白さと光触媒の効用を伝導東京理科大学 学長 藤嶋 昭

科学分野の発展は学校教員の育成にあり

聞き手:藤嶋学長ご自身が光学分野において最も関心のあること,興味のあることとはどのようなことですか。

藤嶋:例えば,空がなぜ青いか――です。これは,人類の歴史の中で長い間,最大の疑問となっていたことです。哲学者のAristotelēsも分からなければ,物理学者・天文学者・哲学者のGalileo Galileiでさえも解明できず,疑問として長きにわたって残ってきたわけです。この疑問を解明したのは,今から約140年前のことでした。物理学者・気象学者のJohn Daltonが原子を発見して原子説を説き,大気中の酸素や窒素の存在,その分子の大きさを解明しました。
また,前述した物理学者・化学者のAvogadroが分子説を説き,さらに物理学者のIsaac Newtonがプリズムを使って,太陽光が7色の光で構成されていることを発見し,7色の光のうち波長の短い青色の光だけが酸素と窒素の分子で散乱して空が青くなることが分かってきたのです。
こうした散乱現象に対し,物理学者のRayleigh卿(John William Strutt)が「レイリー散乱」を発見しました。その後,1871年にはその散乱現象を実証するために,当時英国王立研究所の所長を務めていた物理学者のJohn Tyndallが実験を実施しています。この実験の内容は,2年前に出版された書籍『青の物理学―空色の謎をめぐる思索』(Peter Pesic著,岩波書店発刊)で紹介され,“空がなぜ青いか”を課題とした変遷がすべて網羅されています。
 Tyndallは,ベンゼン蒸気中に小さな微粒子ができる実験装置を製作したのです。実験では,太陽光の代わりに白色灯を照射することで,実際に散乱が起こって青色に変化する現象,さらに夕焼けの現象として赤く変化することも実証できたわけです。夕焼けは,青色の光が取られて残った光がすっと通過し黄色や赤色になることで起きる現象です。これが,1871年にTyndallが実施した実験です。この実験を通じて,空は青く,夕焼けは赤いという現象が実証できたわけです。このように“空がなぜ青いか”という大きな課題に向かって,さまざまな科学者たちが必死に解明していく変遷をみても,「科学って本当に面白い」または「光学って興味深い」と実感できるのです。

聞き手:こうした科学の面白さをもっと多くの人に知ってもらおうと,藤嶋学長は10年近く前から全国の小・中学校,高校を中心に「出前授業」を開かれています。

藤嶋:実は,最近の出前授業では科学分野の先人たちの功績を基に,この散乱現象を簡単な道具を使ってその場で「チンダルの実験」を実演して見せています。対象となる実験は,Tyndallが作ったベンゼン蒸気系ではなく,酸化チタン水溶液を使用しています。つまり,光触媒の材料を利用しているわけです。使用している酸化チタン粉末は私が使用する中で最小の粒径10nm(100Å)で粒が揃っているものを,水道水で0.1%希釈したものです。これをペットボトルに入れて,太陽光などの光を当てると,光源側は青く変色し,その反対側は黄色に変色してくるのです。この簡易実験を実演すると,どこへ行ってもその場で皆驚いてくれますね。実験のテーマは,この“空がなぜ青いか”以外に,“鏡はなぜ曇らないか”などもあります。
 出前授業を実施する目的は,“子どもたちの理科への苦手意識を払拭する”ことです。最近では,北は青森県,南は九州一帯を巡り年間50回近くを実施しています。高校に行く機会が最も多いですが,反応が一番いいのは小学校です。小学生は好奇心が旺盛で,鋭い質問をしてくることも度々で楽しいですね(笑)。  こうした出前授業を通じて,多くの人たちに科学の面白さやその必要性をもっと理解してもらえればと考えています。そのためには,まず指導する立場の小学校の教員から科学(の教育)について理解してもらうことが必要条件になります。理科の授業については,担任の先生が“指導するのは難しい”との理由で,最近では「理科支援員」を配置するなど措置が講じられました。特に,高学年の5年生や6年生への指導は難しくなりますので,そうした内容を理解し教授できる先生の育成が急務となっています。では,この現状を打開するにはどうしたらいいか――。私は,理科大の卒業生から理科や数学の指導に長けた小学校の先生を輩出していく必要性を感じました。これまで,理科大は中学校や高校の理科や数学の教員を,全国で最も多く輩出してきた実績があります。現在,全国の高校の校長先生をとってみても,理科大の出身者は約100人となっています。しかしながら,理科大には附属小学校がないこともあり,現状では小学校の教員を輩出できる環境にはありません。そのため,玉川大学の小原芳明学長に「小学校教員の課程で理科大の学生を,免許状の取得まで修学させてほしい」と依頼したところ,快諾していただき今年の2013年4月から5名の3年次の学生でその課程がスタートしています。これを足がかりとして,理科大からどんどん小学校の教員も輩出していきたいと考えています。また,こうした教員の増加によって,日本の初等教育において科学・理科の教育が充実し,科学・理科に関心をもつ子どもたちも増えていくことで,日本の科学の発展に寄与できればと願っています。 <次ページへ続く>
藤嶋 昭(ふじしま・あきら)

藤嶋 昭(ふじしま・あきら)

1942年東京都生まれ。1966年横浜国立大学工学部卒業。1971年東京大学大学院工学系研究科博士課程修了。1971年神奈川大学工学部講師。1975年東京大学工学部講師。1978年東京大学工学部助教授。1986年東京大学工学部教授。1995年東京大学大学院工学系研究科教授。2003年~神奈川科学技術アカデミー 理事長。2003年JR東海機能材料研究所所長。2003年東京大学名誉教授。2005年東京大学特別栄誉教授。2006年日本化学会会長。2006年神奈川大学理事。2008年科学技術振興機構中国センター長。2010年東京理科大学長。
●研究分野:光電気化学,光触媒,機能材料
●1983年朝日賞,1998年井上春成賞,2000年日本化学会賞,2003年紫綬褒章,2004年日本国際賞,2004年日本学士院賞,2004年川崎市民栄誉賞,2006年恩賜発明賞,2006年神奈川文化賞,2010年川崎市文化賞,2010年文化功労者,2011年The Luigi Galvani Medal,2012年トムソン・ロイター引用栄誉賞,トリノ大学より名誉博士の称号授与

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