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山場を越えたら,あとは丁寧に(株)ニコン 取締役兼常務執行役員 大木 裕史

光学の本格的な習得は入社後から

聞き手:大木常務は,東京工業大学大学院ではもともと理工学研究科で応用物理を専攻され,光学に携われたのはニコン入社後とのことですが,入社された経緯についてお聞かせください。

大木:当時は,就職難の年でしたが,大学の専攻に直接求人を出している企業に大学推薦を持参すれば,たいていは就職できました。例えば,A社から1人,B社からは2人と企業ごとに募集人数が設定されているため,卒業予定者の間で企業を割り振りする“調整会議”を開き,最終的には公平にじゃんけんで決めました(笑)。その年は,ニコンからの求人がなかったこともあり,当初私は割り振りで某電機メーカーへの応募が決まっていたのです。ところが,ある時就職ガイドブックのページをペラペラとめくっていると,「日本光学工業」(ニコンの旧社名)が目に留まり,ニコンブランドのカメラがもつ高級なイメージに好感を抱き,とりあえず連絡することにしました。すると,翌日に面接を受けることになり,その後トントン拍子に試験と面接が進んで入社することになったわけです。とはいえ,学生時代には,まさか光学メーカーに就職するとは思ってもいなかったので,光学に関する講義は全く受けたことがなく,技術面接の際に当時の取締役から「光学についてはこれから勉強してもらえばいいことだけれど,一言いわせてもらえば,東工大の学生ならせめて辻内順平先生の『光学概論』の講義は取っておいてほしかった」と嘆かれてしまうほどでした。
そのため,私はニコンに入社して光学部に配属されて以来,光学の勉強に努めていました。入社から5年ほど経って,前任のIさんの交代により東京大学生産技術研究所の小倉・黒田研究室が主催する「火曜輪講会」に参加するようになりました。火曜輪講会は,学外にも開かれ企業からの参加も認められていたのです。この火曜輪講会はいまでも続いています。ニコンは,そのメンバーとして参加してきた歴史があり,歴代の参加者には鶴田匡夫さんや渋谷眞人さんなどもいます。
 私が参加し始めたころは,小倉磐夫先生が教授で黒田和男先生が助教授でした。ただし,参加の条件として,聴くだけでなく時々発表することが求められました。大学からの参加者は主に最近読んで興味深いと感じた論文の紹介,企業からの参加者は自社で取り組んでいる研究の話題がほとんどで,こうした話をしたり聴いたりする集まりでした。
 同会に参加して私が最も影響を受けた点は,光学への向学心が刺激されたことです。企業からの参加者にとっては,東大の学生や院生が紹介する論文にはそこで初めて接するわけであり,また自身の研究分野と必ずしも近いとは限らないわけです。そうした条件の下,東大の教授や助教授,助手の先生やドクターの院生にまじって,企業からの参加者も積極的に「これはこういう意味ですか」「これはこうでなくてもいいのではないか」などと質疑や意見がどんどん繰り出されるわけです。分野を問わず,その時々に紹介される論文や研究内容をリアルタイムに瞬時に理解して意見や質問をどんどんぶつけ合う活発な雰囲気に圧倒されるとともに,このような高いレベルに追随していかなければならないと痛感しました。そのため,同会の参加時にはよく話を聴き,その場でできるだけ理解するように努力しました。火曜輪講会は,脳を活性化するトレーニングの場であり,私に開眼する機会を与えてくれた“重要な修行の場”といえるでしょう。
 結局,同会には,私が東大で論文博士の学位を取得するまでの約6年間在籍していました。参加してから2年目のころ,小倉先生から,「君の研究内容は面白いからきっといい論文になる。書いてみないか」と声を掛けていただいたのですが,その時は論文を書く自信がなくお断りしていたのです。ところが,その1年後に再び小倉先生から「そろそろ書く気になったかい?」と再度声をかけていただいたので,その場で覚悟を決め,そこから2年半ほどかけて東京大学に論文を提出し,審査を受けました。審査が終わった後で小倉先生から「学位を取ると,火曜輪講会は卒業になるんだ。もちろん引き続き参加してもいいが,基本的にはもう卒業だよ」と卒業宣言を言い渡され,その後は渋谷さんと入れ替わりました。 <次ページへ続く>
大木 裕史(おおき・ひろし)

大木 裕史(おおき・ひろし)

1954年愛知県生まれ。1977年東京工業大学理学部応用物理学科卒業。1979年東京工業大学大学院理工学研究科修士課程修了。1979年~ニコン(元・日本光学工業)入社〔光学部(当時)に配属〕。2006年「ニコン光工学寄付研究部門」特任教授就任。2008年ニコン執行役員,コアテクノロジーセンター研究開発本部長就任。2011年ニコン常務執行役員,コアテクノロジーセンター副センター長兼研究開発本部長就任。2012年ニコン取締役兼常務執行役員,コアテクノロジーセンター長,カスタムプロダクツ事業部管掌就任。
●2005年渋谷眞人,大木裕史箸『回折と結像の光学』朝倉書店刊(2005),2010年応用物理学会フェロー称号授与

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