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ターゲット・オリエンテッドな技術的展開が次世代へ向けたものづくりの価値を構築する埼玉大学研究開発機構オープンイノベーションセンター 客員教授 山本 碩?

空気軸受けとの出合いが生産技術の世界を拡大

聞き手:ソフトの開発から,本業の生産技術に戻られたのですね。

山本:私にとってこの“軸受け”は,生産技術という世界で,皆さんといろんな意味で展開できる一番大きなきっかけとなりました。
 日本精工(株)とか東芝機械(株)などでもエアベアリングを開発していましたが,当社がポジション的に非常に良かったのは,主眼が,軸受け開発ではなく高精度の実現にあったことです。まず市販のエアベアリングを買い,それを応用展開するところから始めました。私は流体屋として、軸受け開発を行いながら,応用展開にも注力しました。当初の軸受けは,高い給気圧が要る,ショックに弱いなどいろんな問題がありましたが,高精度を実現するために積極的に展開しました。しかし,衝撃による軸受けの焼き付き現象が,展開上大きな障害になり,当時の軸受けは腫れもの扱いでもありました。そこで,多孔質軸受けの開発に着手することになったのです。エアベアリングの耐ショックや高い給気圧などいろんな面で有利な条件が見つかり,工作機械の設計者たちが進んで,安心して使える軸受けというのが初めてできたということで,広く生産手段のキーコンポーネントとして展開できるようになりました。

聞き手:このエアベアリング開発が,その後の幅広い製品開発につながるわけですね?

山本:流体屋の私としては,この出合いは非常に運が良かったと思っています。単に既存の部品を応用するだけという考えであれば「エアベアリングは使えない」という状態で終わっていたと思いますね。生産技術屋として,切削や研削プロセスなどへの応用展開を図りながら,高度な計測・制御技術を含め超精密運動機構全体を開発していきました。ボールベアリングの回転精度が大体1μmと言われていますが,エアベアリングを使うことで1桁,2桁良くなりますから,100分の1μm,下手すると1nmの精度まで出せます。今も露光装置などさまざまな工作機械に展開されています。私がここで追求してきたことは,単純な形状から複雑な形状にまで持っていき,それから,表面粗さまで作ることです。例えば,事務機の複写機用のドラムでしたら円筒面で大体0.1μm精度で鏡面加工ができればいいし,レンズやポリゴンなどいわゆる光を操作する物は大体100分の1μmレベルの表面粗さが必要で,半導体露光装置用は1000分の1μmの精度と超高速制御が,といったことを追いかけていただけですよ(笑)。

聞き手:形状と表面粗さを追求していく中で,発想の転換などがわいてくるのですか?

山本:往々に出てきます。焼き付く,動かなくなる,それに対して固体潤滑ができるようにしておけばいいのではないか,という発想が大きな転換となり,多孔質の軸受けを開発することにつながりました。結果的に,エアベアリングの交換はなくなりましたし,東京工業大学の先生から「ダンピング係数がいいね」とお褒めの言葉もいただきました。ただ,技術報告書を見ても,どういう形状にすればいいかといったことは解析してみないと分かりませんので,実験データを含め,一人で黙々とやるしかありませんでした。シミュレーションをするのに,光学設計のいわゆる製品開発の最先端のところにしかないTOSBACのコンピューターを使わせもらったのですが,私が盛んに通ってくるのでキーパンチャーの女性に怒られました(笑)。
 リニアエアベアリングは,半導体露光装置(マスクアライナー)に展開していましたが,直進運動精度を厳しく求められたのは金属ポリゴン加工です。レーザービームプリンターのコストダウンのために,ガラスを磨いて鏡面にしていたポリゴンミラーを金属に変え,切削でミラーを作るという技術開発です。それに合わせて実験機を作りました。ドラムでしたら大体0.1μmレベルの表面粗さでいいのですが,鏡で光を操作するとなると100分の1μmの精度が必要になります。しかし,これがなかなか出ない。エアベアリングにしても駄目だった。今から思えば簡単なことですが,気付くまでにものすごく時間が掛かりました。エアベアリングだからもう100分の1μmの精度が出ていると思っていましたが,案内面の表面粗さがまだ3μmぐらいのレベルでした。エアにすることによって精度が10分の1になると見込んでいましたが,表面粗さにも10分の1のレベルが必要だったということに気付き,案内面を1μmから0.1μmレベルまで磨いたところ,見事に表面鏡面がバシッと出ました。この粗さを出すのに,表面の案内面も同レベルの粗さを出さなくてはいけないということを発見したのが,光学素子を加工する上での1つの発見でした。 <次ページへ続く>
山本 碩?(やまもと・ひろのり)

山本 碩?(やまもと・ひろのり)

1969年,九州大学工学部工学研究科修士課程修了。同年,キヤノン(株)に入社し工作機械設計課に配属。1982年に生産技術部主幹研究員,1983年に超精密研究部機械要素研究室室長。1994年(?97年)九州大学工学部非常勤講師,1996年生産技術研究所所長。1998年に生産本部副本部長,1999年に取締役兼コアテクノロジー開発本部長,2001年にディスプレイ開発本部長。2003年に同社先端技術研究本部部長に就任し,日本機械学会の生産加工・工作機械部門部門長を兼任。2004年に同社常務取締役,日本機械学会のフェローに。2005年に同社生産技術本部長兼グローバル環境推進本部長に。2007年,キヤノン電子(株)に移籍し取締役副社長就任。2010年に?埼玉県産業振興公社(旧・?埼玉県中小企業振興公社)の理事長を就任,2012年に同公社を退任。同年4月,埼玉大学研究開発機構オープンイノベーションセンター客員教授に就任,現在に至る。研究・専門テーマ:精密機械要素,精密加工機,精密加工

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