【重要】技術情報誌『O plus E』休刊のお知らせ

エンジニアリングとサイエンスのバランスを考える東芝リサーチ・コンサルティング(株) フェロー 波多腰 玄一

デバイスシミュレーターの 開発を担当

聞き手:デバイスのシミュレーション技術を担当されて,特にお感じになったことはありますか?

波多腰:シミュレーション技術をやっていると,原理原則が非常に重要だということは分かるのですが,一番気になったのは原理限界がどこかということでした。原理限界が分からずにやみくもに開発をやってもしょうがないので,LEDでいうと例えば効率のことを考えます。効率がどこまで上がるかということには限界があるわけです。それをちゃんと把握した上で開発を進めることが非常に重要じゃないかという気がしました。
 また,半導体レーザーに関して言うとビーム品質という特性があって,その解析もやりました。のちに標準化に関わるようになり,この話はそこでかなり議論しました。ビーム品質は半導体レーザー,特に光メモリーで非常に重要な話なので,その解析もシミュレーターに組み入れてかなり幅広い解析ができたという意味では良い経験になった気がしています。

聞き手:シミュレーターは物理法則をベースに作られると思うのですが,最終的に実際の現象と合わせるためのフィッティング――要するに経験値による計算も必要だと思います。ただ,フィッティングをあまり強くすると今度は原理がボケてしまうようなところがあるのではないかと想像します。そうした調整はどうやっていくのでしょうか?

波多腰:そういう意味では,赤色半導体レーザーやGaN系のデバイスとシミュレーション技術を一緒に開発してきたのは,私にとって非常に良かったという気がしています。必ずしもフィッティングではないのですが,確かにパラメーターはいろいろあります。シミュレーションとは元になる物理モデルがあって,計算手法があって,あとはそれらをコーディングするだけなのですが,それらの両方が必要なのです。モデルの中には第一原理で出てくるようなパラメーターもあるのですが,半導体ではなかなか計算結果が合いません。光の回折格子やパッシブな装置は設計通りに作ればその通りにできるので単純明快ですが,半導体はそうはいきません。それでも一応フィッティングパラメーターのようなものがあって,それらはモデルから出てくるものなのです。

聞き手:シミュレーターの開発は事業部などから委託されて作るのでしょうか?

波多腰:いいえ。シミュレーター自体の委託開発ではなく,デバイス開発でシミュレーターを使うために開発するということです。また,「こういう解析をしてくれ」という委託をされることがありますから,そこで事業部とやり取りすることがあります。

聞き手:開発で特にご苦労されたことはありますか?

波多腰:一番苦労したのは,実際のデバイスのフィードバックをどうやってシミュレーターに生かすかというところですね。また,使い勝手も良くしないといけないので,入出力も含めて全部作ります。そうした部分は時間がかかりました。数千行という膨大なプログラムのうち,実際の計算部分とユーザーインターフェース部分はだいたい半々になり,インターフェースの開発もかなりの時間を要します。
波多腰 玄一(はたこし・げんいち)

波多腰 玄一(はたこし・げんいち)

1974年,東京大学 工学部物理工学科卒業。1980年,同大学大学院 工学系研究科物理工学専門課程博士課程修了。同年,東京芝浦電気(株)入社,総合研究所電子部品研究所に配属。1989年,同社 総合研究所電子部品研究所化合物半導体材料担当 主任研究員。1996年,同社 研究開発センター材料・デバイス研究所研究第四担当 研究主幹。1997年,同社 研究開発センター個別半導体基盤技術ラボラトリー 研究主幹。2003年,東芝リサーチ・コンサルティング(株) フェロー。2006年,独立行政法人科学技術振興機構 研究開発戦略センター フェロー。2011年現在,(株)東芝 研究開発センター電子デバイスラボラトリー 参事(兼務),東芝リサーチ・コンサルティング(株) フェロー。独立行政法人日本学術振興会 光電相互変換第125委員会幹事,公益社団法人応用物理学会 日本光学会微小光学研究グループ運営副委員長,ISO/TC172/SC9国内対策委員会委員長。Laser Focus World Japan 社外編集顧問。

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