【重要】技術情報誌『O plus E』休刊のお知らせ

世界の耳目が日本に集まっているこの時期に,日本は何を発信できるのか(株)グローバルプラン 岡村 治男

海底ケーブルはスケールが大きい世界

聞き手:海底ケーブルの仕事は技術の世界の中でも,とても男らしい仕事ですね。

岡村:男らしいというか,スケールの大きい仕事ですよ。地球をあっち行ったりこっち行ったりしますから。議論の中身も,光通信の先端技術から,泥臭いケーブルを海に落とす装置の話まで。海底の伝送技術は伝送距離と伝送容量,信頼性の極限をとことん追求する最先端技術です。これがそのあと,陸上のシステムに生かされます。しかも,地震で切れたり,サメがかじったり,トロール漁船が引っ掛けたり,あらゆることが起きるわけですよね。それを直しに行くといったって,そう簡単じゃない。海底ケーブル敷設船という特殊な船で,高い波を避けて何日もかけて行かなければなりません。

聞き手:とても素人くさい質問なのですが,米国と日本の間で海底ケーブルがずっとつながっているわけですよね?

岡村:そうです,線がずっとつながっています。

聞き手:壊れた場合,それを直すにはケーブルを引き上げるのですか?

岡村:もちろん,そうです。ケーブル引き上げ用の錨があって,ケーブルの走っている方向が分かっているので,それに直角に走りながらすくっていくわけです。大変,原始的な方法でしょう?

聞き手:失敗することもあるのですか?

岡村:はい。3日目にようやく引っ掛かるようなこともあります。船上で修理していたら台風が来たので,いったんケーブルを切ったところをブイで浮かせて港に帰り,台風が過ぎたらまたブイのところに戻って直すと。そんなことをやっていると,すぐに何週間もかかってしまうわけです。船1隻雇うと,それを動かしたりする人も必要ですから,1日で何百万円もかかってしまう。まあ,大変な世界ですよね。

聞き手:今ではインターネットを使って米国のサーバーを覗きに行くようなことが日常茶飯事に誰でもできますが,それもすべて海底ケーブルのおかげなんですね。

岡村:そうです。光の信号をいかに高速化,多重化して海底ケーブルの中に回線を多く詰め込むかが神髄で,熾烈な競争でしたね。そんな研究開発にNTT研究所とNEC事業部という違う立場からかかわれたのは本当に幸運だったと思います。

聞き手:先ほどの話で光増幅器のお話が出ましたが,海底ケーブルの中で信号が伝送されるときに減衰していくのを増幅する役割があるわけですね。しかし海底ですから,電源がそこら辺から供給されるわけではありません。どうやって供給するのですか?

岡村:電源は陸上から直流給電します。最大1万何千ボルトという電圧をケーブルの端からかけます。例えば50kmごとに光増幅器が入り,そこに給電して行きます。一方,光の信号は光のままで通って行きます。光増幅器ができる前の中継器は,50kmも旅をして弱って汚れて歪んだ光信号を一旦電気信号に変えて歪みや汚れを除き,その電気信号を使って強くてきれいな光信号を作って,また光ファイバーに入れる。これを繰り返していました。それが,光増幅器ができたおかげで,ずっと光のまま伝送できるようになったのです。歪んだ光信号は,特殊な光ファイバーで逆の歪みを与えて元に戻したり,あれこれ工夫して,これで海底ケーブルが圧倒的に安く大量の情報を送れるようになった,まさに革命的なデバイスが光増幅器だったわけです。

聞き手:今は光増幅器が主流なのでしょうか?

岡村:ほぼすべてそうなりました。以前は国際電話に衛星を多く利用していましたが,それだと声が遅れる。でも,今は国際電話の通話が遅れないでしょう?

聞き手:確かに遅れませんね。

岡村:ほぼすべて海底ケーブルで伝送されているからなんですよ。

聞き手:ある意味,すごいですよね。そういうインフラ技術は,使っている人間にとって当たり前の世界なのですが,実際に行われていることは,ものすごいことなんですね。
岡村 治男(おかむら・はるお)

岡村 治男(おかむら・はるお)

NTT,NEC,米コーニングで光通信の研究とビジネスにたずさわり,1990年ごろから国際標準化に関わる。2003年,技術や考え方を世界標準にするお手伝いをする(株)グローバルプランを設立。光通信,地球環境,情報格差,国際人材育成などで積極的に発言している。また,2002年から有名なデミング博士の高弟である米国カリフォルニア州立大の吉田耕作名誉教授に師事して,人間尊重・協調・全体観によるサービス業の向上セミナーを展開。日本経済再生の強力なテコと考えている。最近は国際人材の素養について東京大学大学院非常勤講師や経済産業省の出前授業講師などにも従事。日本ITU協会顧問,コーニングアドバイザ,情報通信審議会専門委員,工学博士,経営学修士。

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