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世界の耳目が日本に集まっているこの時期に,日本は何を発信できるのか(株)グローバルプラン 岡村 治男

標準化の世界へ

岡村:光計測の分野は機械,電気,通信などの混合領域です。機械系の研究者として海の仕事が終わってしまったものですから,当時注目され始めた光ファイバーの計測応用のひとつである光ファイバーセンサーの研究をきっかけに海から陸にあがっていきました。2~3年たったころ,光ファイバーセンサーの世界標準を作るという話が持ち上がりました。これから大量に使われることになりそうで,世界のあちこちでさまざまな人がさまざまな方向を見ながら,勝手な用語や測定方法をバラバラに使って研究開発や実用化を進めて行くとなると,これはやはりちゃんと整理して,方向付けもして無駄な投資を避けなければならない。そんなことから,国際電気標準会議(International Electrotechnical Commission:IEC)で光ファイバーセンサーの標準を作るためのグループが発足しました。そこに日本からも誰か1人行かなければならないということになり「おまえ,ちょっと行ってこい」という流れに(笑)。
 標準化グループに参加する必要条件として語学という点も見逃せません。NTTの研究所は横須賀にありますので,すぐそばには米軍の海軍基地と,その前に「どぶ板通り」という米海軍御用達の飲み屋街があります。「それじゃあ英語でもやるか」と思い立ち,どぶ板通りに行って酔っ払った水兵たちと飲んだりし始めました。それで,英語に対する壁が何となくとれていったのでしょう。研究所ではしばしば英語のテストをやらされるのですが,どぶ板通りで飲んでいたおかげもあってか,平均より少しだけ成績が良かったのですね。国際標準の会議に出る必要条件を一つクリアということになるわけです(笑)。
 それで,一人でポンと国際標準化の会議の中へ入って行くことになりました。国際標準がどういうもので,国際合意がどのようにできるのかという予備知識もなく,その場には日本人もいませんでした。わけの分からないまま初めての外国出張に行くことに。

聞き手:場所はどちらの方ですか?

岡村:最初は米国フロリダ州のクリアウォーターというところだったと思います。ベテランに見えるアメリカ人,フランス人,イギリス人などが10人ぐらい,アロハシャツだったり,半ズボンだったり。奥さんを連れて来ている人が多かったですね。リゾート地を選んでそういう会議が設定され,これからどのように標準化を進めていくかという作戦会議だったのです。
 「へー,国際会議ってこうやるんだ」と妙に感心した覚えがあります。その時は少人数で机を挟んで,後ろではメンバーの奥さんがコーヒーを飲みながら聞いているみたいな状況でした。大変フランクな会議で,「外人同士ってこういうふうに付き合うのか」と良い勉強になりました。どぶ板通りの酔っ払いの水兵はよく知っていましたが,こうしたある種インテリ層のフランクな,しかし,中身のある議論というのは聞く機会がほとんどなかったので,かなり珍しく思ったものです。私自身の性格もそうした会合に合っていたのかもしれません。アロハシャツのお陰か,緊張よりも面白いという印象の方が強かった記憶があります。
 その当時,私自身の心の中には,「機械屋が電気通信の研究所に入ってなにしに来た」という,ある種方向を見極められなかった思いがありました。海底ケーブルは機械屋として一生懸命やった。センサーや計測技術にもかかわった。だけど,これらは伝送の保守本流ではないのです。そのような時期に一見,楽しそうな標準化の世界を覗いて「これなら自分も少しできるかもしれない」と思ったわけです。
 20年以上前は私も“国際”がいかに多様かという実感もありませんで,最初のころ,標準化とは「バラバラになった技術をタンスの中に整理しているだけじゃないのか」というような印象でした。だけど,技術の将来を議論して,世界にとって重要な方向を見極め,効率よく投資して,研究開発も進める。逆に不利な標準ができるのは困るので,危機管理とか,保険に入っておくというような意味もあることに気がつくわけです。そして続けてやっていけば,きっと重要になってくるに違いないという予感を持つようになり,一生懸命やったのですね。
岡村 治男(おかむら・はるお)

岡村 治男(おかむら・はるお)

NTT,NEC,米コーニングで光通信の研究とビジネスにたずさわり,1990年ごろから国際標準化に関わる。2003年,技術や考え方を世界標準にするお手伝いをする(株)グローバルプランを設立。光通信,地球環境,情報格差,国際人材育成などで積極的に発言している。また,2002年から有名なデミング博士の高弟である米国カリフォルニア州立大の吉田耕作名誉教授に師事して,人間尊重・協調・全体観によるサービス業の向上セミナーを展開。日本経済再生の強力なテコと考えている。最近は国際人材の素養について東京大学大学院非常勤講師や経済産業省の出前授業講師などにも従事。日本ITU協会顧問,コーニングアドバイザ,情報通信審議会専門委員,工学博士,経営学修士。

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