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ベンチャーで成功するには,どこに用途があり,誰が買うのか分かっている必要があります。東京大学 物性研究所 渡部 俊太郎

産学連携とベンチャービジネス

 東大の物性研は東京の六本木から千葉の柏市に移ったわけですが,地域連携という点では大きく変わりました。
 物性研が六本木にあった時は,あまり地域連携といった意識はなかったのですが,ここ柏市では地元から熱烈歓迎されています。
 というのも,この辺りにはたくさんの中小企業があり,物性研はそれらの企業からものすごい期待をされているのです。地方のベンチャー企業というのは非常にがんばっていて,今の大企業より元気があります。
 柏キャンパス産学連携事業第1号に,グラビア印刷用製版装置の半導体レーザー化というのがあります。グラビア印刷というのは,凹版のくぼみにインクを入れて印刷する手法です。その凹版を作るのに,少し前まではアルゴンレーザーを使っていました。
 私はその製版装置を作っている人たちと交流があり,まだ六本木に物性研があった頃に「アルゴンレーザーは時代遅れですよ」と彼らに言ったことがあるのです。それを憶えていて,柏市に移ってきたらすぐに半導体レーザーを使った製版装置の開発を産学連携でぜひやりたいとの申し入れがあったのです。
 この連携事業で開発した製版装置は,半導体レーザーを横一列に200個並べており,直径7mmほどの穴を高速で開けることができます。
 半導体レーザーは,従来のアルゴンレーザーよりも小型であり,同時にたくさんの穴を開けられるので高速化が可能です。また穴径が14mmから7mmにできたため,粒子の小さい水性インキが使えるというメリットもあります(図3)。グラビア印刷では有機溶剤を使った油性インキが主流なのですが,環境問題を考えた場合に水性インキが使えるというのは重要な意味をもちます。

図3 地域連携で開発されたレーザーグラビア印刷機と水性インクを用いた沖縄サミットのポスター。

 最近しきりに産学連携という言葉が叫ばれており,大学発のベンチャー企業も数多く設立されていますが,私の研究スタイルは,昔から産学連携だといえます。
 昔は,大学でやっていることは共有財産で,基本的にボランティアに近いものでした。ベンチャーにしても,大企業の人たちが大学に技術やアイデアを聞きにきて社内ベンチャーを設立する企業がほとんどでした。しかし,現在は民間企業に力がなくなってきており,またそういった体制も時代にあったものではなくなりつつあるため,大学発のベンチャーが多くを占めるようになったのです。
 実際,エキシマレーザーにしても,2人で作ったような小さいアメリカのベンチャー企業に,日本の大企業の社内ベンチャーが負けている状況なのです。
 つくづく思うのですが,技術というものは探せばほとんど大学にあると思います。要は,何に使うかなのです。
 私は最初,核融合用にエキシマレーザーを研究していたわけですが,実際の応用はまったく異なるものになりました。そのような経緯をつぶさに見てきましたから,ベンチャーにしても,成功するには「このようなものができれば,どこに用途があって,誰が買ってくれるか」が分かっていることが重要なのだと思います。
 それを理解しており,開発するのに必要な技術は何かということで大学に探しに行けば,求めているものはほとんど見つかると思います。
 売れる製品ができるというのは,その結び付けがうまくいったということだと私は思うのです。

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