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これからの時代は光学やエレクトロニクス中心の物理教育であるべきではないでしょうか。東京大学 名誉教授 霜田 光一

テクノロジー時代の物理教育

 高校の物理の教科書に関してはずいぶん後まで関与しましたし,学習指導要領やその解説書を作成する委員も長年務めてきました。
 しかし,昭和55年の学習指導要領の改訂で「理科I・II」の教科書ができた時に,忙しさと意見の相違のため,委員を辞退することに致しました。この時は,保守的な物理教育のあり方により,新しい考えが取り入れられなかったからというのが本音であったと思います。
 以下に述べるのは昨年の世界物理年関連で講演したことですが,新しい物理教育のあり方という点でお話ししましょう。
 体系的に物理を学校で学ぶようになった時に,従来まず最初に学習するのがニュートン力学です。ここで,学生はニュートン力学が物理の基礎であり,ニュートン力学なくしては物理は成り立たないといった観念を教えられます。これは大学の教養学部の物理においても同様です。
 ゆとり教育と呼ばれた昭和55年の学習指導要領の改訂において高校では必修科目として理科I・IIが作られました。
 そもそも,理科I・IIという科目が作られたのは,授業の時間的制約あるなかで必修として教えるには自然科学の重要な部分を総合した科目にする必要性があったからです。
 しかし,自然科学のすべての分野を体系化することは難しいため,最終的に出た結論は,「物理・化学・生物・地学のそれぞれから基本的事項を集める」というものでした。
 この時物理に関しては,「物理とは物のことわりであり,物には質量があるから,質量がなんであるかをまず教える必要がある」という考え方で進められたのです。
 これにより,物理は力学を基本として教えるという学習指導要領になりました。これは,文系の学生に対しての配慮でもあります。
 しかしながら,近代物理というのは必ずしもそうではありません。例えば,カオスや非線形光学,あるいは複雑系の物理などがそうです。これらのなかには質量はあまり出てきません。このような例は幾つでもあります。
 明治以来の伝統で,ガリレオやニュートンの力学をこれまで最初に教えてきましたが,そういう伝統もそろそろ考え直して新しい物理を考えるべきではないかと思うのです。
 現代はコンピューターやインターネットを始めとして,CDやDVDなどの光ディスクといった最先端分野のすべてが光学とエレクトロニクスを基幹技術としています。
 そこで,今の時代背景に合うように,力学ではなく光学とエレクトロニクスを中心とした新しい物理教育を提案したいのです。
 電磁気の教育にしても,必ず最初にクーロンの法則を教えますが,現代の科学技術を学ぶのにクーロンの法則が基礎かどうか疑問だと私は考えています。歴史的な順序で学習するよりは,現代的に体系を作り直して教育する方が効率的でしょう。しかし,それには教える側の負担や不安があります。教育というのは大変保守的なもので,自分がかつて教わった通りに教えるという傾向がどうしても強いものです。
 「自然科学の真理は変わらないから,それでいい」と思っている方がいるかもしれませんが,自然科学は進歩しています。進歩に合わせた変革をやめてしまった学問は伝統芸能になってしまいます。
 昨今話題になっている理科離れという現象もその辺に原因の1つがあるのかも知れません。少子化で日本の科学技術を支えて行く若い人材の確保が厳しくなるなか,そろそろ手を打たなければ日本の将来は危うい気がしますが,皆さんはいかがお考えでしょうか?

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