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植物工場の野菜は,安全で“いつでも旬に近い野菜”です。財団法人社会開発研究センター 高辻 正基

東海大学へ

聞き手:先生はその後東海大学に移られていらっしゃいますが,その経緯はどのようなものだったのですか?

高辻:そのようなことで,われわれの植物工場は話題になり,いくつか受注も取りましたが,それも一段落し,1988年に東海大学から教授として来てくれないかと声を掛けられ,まだ日立に席はありましたが,非常勤で東海大学に行くことにしたのです。そして,1991年に東海大学に開発工学部が新たにできたときに,日立を辞め,正式に東海大学開発工学部の教授になったのです。そこには定年の2007年までいました。
2004年から5年間は,東京農業大学の客員教授を勤め,昨年にこの社会開発研究センターで,植物工場・農商工専門委員会を立ち上げました。

植物工場の将来

聞き手:植物工場・農商工専門委員会というのはどのような組織なのですか?

高辻:2009年4月に植物工場ワーキンググループの報告書が発表されたときに,経済産業省所轄の財団法人である,社会開発研究センターの野田一夫会長から,「ちょうど良いタイミングだから植物工場・農商工専門委員会を財団内に立ち上げ,植物工場の実用化のお手伝いをしたらどうか」というお誘いを受けました。現在この専門委員会には,会員として60社以上の企業が参加しています。

聞き手:2年前に発生した毒ギョーザ事件では,日本の食の安全や食料自給率が非常に問題になりました。また,今年の猛暑で野菜の価格が高騰したときにも,野菜の安定供給が問題になりました。ところで,今後植物工場は普及するのでしょうか?

高辻:現在の植物工場というのは,第三次ブームといえると思いますが,以前とは違い,経産省や農水省の支援があるので,期待ができるのではないでしょうか。

聞き手:植物工場が普及するためにはどのような課題を克服する必要がありますか?

高辻:植物工場の一番のメリットは,無農薬で安全な野菜を安定供給できるということです。現在の植物工場は,クリーンルームを使った水耕栽培が主流ですから,虫もバイ菌も野菜に付きません。さらに重要なのは,品質のばらつきが少ないということです。形・栄養とも植物工場で作った野菜は露地ものに比べてばらつきがあまりありません。植物工場野菜は,旬の露地栽培の野菜にはかないませんが,旬をはずれた露地栽培の野菜よりも一般に優れているといえるでしょう。つまりこれは,いつでも旬に近い野菜が食べられるということです。
 そのような大きなメリットがある一方で,課題となるのがコストです。

聞き手:電気代などを考えると植物工場の野菜は値段が高そうですね。

高辻:しかしながら,今後も研究を続けることで,そういった問題も徐々に解決されていくのではないでしょうか。私が植物工場の研究開発を始めた30年前に比べて技術も大きく進歩していますし,消費者の認知度も上がってきています。私は植物工場の将来に期待していいと思います。

聞き手:確かに,昔は“お茶や水を,お金を出して買って飲む”ということは考えられませんでしたが,今では当たり前のようになっています。そのようなことを考えると,近い日に“植物工場の野菜が食卓の常識”という時代が来るかもしれません。
 本日はお忙しい中,興味深いお話をありがとうございました。(おわり)

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