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「理学」が「工学」に大きな進展をもたらし,それが新たな「理学」の世界を生み出す。(後編)東京大学 名誉教授 清水 忠雄

物質に興味を持つのが化学で,現象に興味を持つのが物理

「理学」が「工学」に大きな進展をもたらし,それが新たな「理学」の世界を生み出す。(後編) 聞き手:先生がこれまで研究されてきた,原子・分子分光学というのは物理学の分野ですが,化学的な要素も多分に含まれている感じがします。以前,先生は講義で「物質に興味を持つのが化学で,現象に興味を持つのが物理」ということをおっしゃられたということをお聞きしましたが,これはどのような意味なのでしょうか?

清水:これは,あくまでも一面的な個人的見解ですが,物理の研究者というのは,方法論を開発することには割と熱心です。しかし,それがひとたびできあがってしまえば,次の話題に移行していきます。例えば,物理の研究者が高出力のレーザーを作ったとしたら,その装置でいろいろなことを調べたりするということはあまりしないのではないでしょうか。
 しかし化学の研究者は,高性能な装置ができればそれを使っていろいろなものを調べ,そこから帰納的に法則を見つけていくわけです。化学の人と物理の人の考え方の違いは,その辺にあるのではないかと思います。

聞き手:以前,酸化チタンを使った水の光分解で有名な本多健一先生にお話を伺ったときに,物理学者と化学者の合同プロジェクトでは,同じ現象について話していても,お互いにとらえ方が違うため,コミュニケーションするのに非常に苦労したということをお聞きしました。

清水:原子・分子分光学というのは,化学と物理の中間的な学問ですから,物理だけでなく化学の世界の研究者とも交流があります。化学の人はいろいろな物質に関心があり,限定した特殊な世界からスタートし,そこで見つけた事象をさまざまなものに適応していきます。一方,物理の研究者は,特殊なものにだけ適応できる法則ではなくて,一般的に適応できる法則・方法を発見しなければ駄目だというような雰囲気があったりします。これらのことを踏まえて一言で表現すると,「物質に興味を持つのが化学で,現象に興味を持つのが物理」となるわけです。このように認識していれば,話は通じやすくなります。
 化学の人は,物質に対する感覚が非常に鋭いといいますか,「この物質でこうなら,こっちの物質ではこうなるはずだ」というような類推が非常に発達しています。そのあたりは,いつも感心させられました。
 以前,化学の研究者に「先生の研究室ではアンモニアを使った研究ばかりやっていますが,何でアンモニアがそんなに好きなのですか?」と聞かれたことがあります(笑)。確かに私の研究室では, 10人ほどの人がアンモニアの分子を使った研究で学位を取っています。しかし,アンモニア分子に興味があるのではなく,手段としてその分子を使っているだけです。アンモニア分子は,分光学的な試みに対して,いくつかの良い特徴を持っているのですが,化学的にいうと結構特殊な分子なのだそうです(笑)。

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