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第19回 台湾交流録 part 5  建築空間へ

HODIC in Taiwan 4-グッドタイミング


 翌2015年12月に,HODIC in Taiwan 4, International Symposium on Holography:Bridging Art and Technologyが交通大学光電研究所で開催された。講演会と並行して,玄関ホールでは台湾と日本サイドから多くのホログラムが展示された。図8(a)(b)(c)は光電研究所の玄関ホールでの展示風景である。充実した交流となった。この時の台湾訪問では,実は筆者にはHODICとは別のハイライトイベントがあった。HODICの日程が確定し,ちょうど航空券の準備を始めたころ,Dr. Hsiehから予定より数日早く台湾に来られないかと連絡があった。聞けば,師範大学時代の教え子が,ちょうどHODICの数日前に結婚披露宴を開くので,一緒に出席できないかと言うのだ。その教え子というのは,私が台湾で最初のホログラフィー講座を担当した時にドクターコースの学生だったので,実験助手としてよく働いてくれた。自身も工夫して面白いホログラムを制作し,阿里山観光を案内してくれた学生だった。卒業してからは当時台湾の若者全員の義務である1年の兵役を終え,私が台湾を訪問した時はわざわざ会いに来て成長した姿を見せてくれた。私は喜んで出席させていただくことにした。台湾と日本の披露宴の文化の違いも大変興味深かったが,同時に時の流れを実感させられたひと時でもあった。

鬼の霍乱


 2017年春,2年ぶりに交通大学の夏季ホログラフィー講座の問い合わせが入った。答えはもちろん“イエス”。前学期の終わりの6月前半と日程が決まった。ちょうどこのころ,前年にフランスのホログラフィーファンデーションからアートグラントを受けて制作したホログラム作品を,装丁も施して完成させ,パリの基金事務所に送り出す作業に励んでいる最中だった。ホログラムの空輸はいつものことながらいろいろ煩雑で,特に海外の通関手続きではどんなことが起こるか予想がつかない。期日までにパリの荷受先に送り届けるのは一苦労である。そんな折,同じ年にアートグラントを受けた5人のアーティスト全員の作品展がパリで開催されると知らせが届いた。これから送ろうとする作品も展示されるので,作品設営にも立ち会いたいし,ぜひ他のアーティストたちの作品も見たい。これはぜひパリに行かねばと思いいたった。会期は5月下旬から6月半ばだった。これは台湾行きと重なっているではないか! 待てよ,設営とオープニング日程はかろうじて台湾日程とずれている。それならば,と言うわけで,台湾に行く前にパリに出かけることにした。
 両方の期日が近いので,はじめは東京からパリに飛んでそのまま台湾に向かう案を考えた。ところがフライトを探すと,パリから台湾への直行便などはなく,アジアのほかの国か日本を経由することになり,チケットもかなり高額になることが判明した。そのうえ2つのプロジェクトを一緒にまとめるとなると,旅の日程も長くなり,持ち運ぶ荷物もかなり増える。というわけで,私はパリと東京をまず往復し,その1週間後台湾に出かけることにした。身体的に時差の調整は年々厳しくなり,体力的にも少し不安を感じつつも,20年ぶりのパリ行きにすっかり魅せられてしまい,このような日程を組んだ。ところが,準備を進めるうちに,展覧会のオフィシャルオープニング日程が2日ほど後にずれ込む事態となってしまった。オープニングに出席できなければパリ行きの意味が半減してしまう。結局,ずれたぶんの日程を合わせて変更して,5月31日の夕方にパリから東京に戻り,6月5日の早朝には東京を立つという,“これまで経験したことのない”ハードスケジュールを組み立てた。しかし,このツケは後でしっかり回ってきたのだった。
 パリ滞在中は,5月というのに30℃越えの日が続き,決して快適とは言い難い天候だった。設営作業も無事こなし(パリの展覧会の話は別の機会にするとして),帰国後,スーツケースの再パッキングもそこそこに台湾に向かった。台湾でのスケジュールはいつも大学側任せだが,この時はなぜか新竹キャンパスに到着した翌日,一息つく暇もなく,午前中には高鐵で交通大学の台南キャンパスに移動し,あわただしく昼食をすませ,午後はすぐ,通しでなんと3時間(!)の講義が組み込まれていた。パワーポイントのスライドはいくらでも準備してあったが,不自由な英語で3時間(日本的表現では2コマ連続の講義)はかなりのハードワークであった。台南には3泊の予定で翌日は観光日のつもりでいた。ところが,翌朝,私は完全にダウンしていた。“鬼の霍乱”である。ふだん頭痛をほとんど知らない私であったが,その朝はひどい頭痛と飲み物でさえまったくのどを通らず,ベッドにジッと横たわる羽目になった。病院?という単語が脳裏をよぎった。それでも午後,何とか気分が収まってくれ大事に至らなかったのは幸いであった。この出来事は,時差と気候がかなり異なる3国間を“これまで経験したことのない”ハードスケジュールで移動するには少しは歳を考えなさいと言われたような気がした。
 外国での病院行きと言えば,一度だけ経験がある。ホログラムの制作のため米国バーリントンに滞在したとき,宿泊先に夏季休暇で留守になるという知人のアパートを借りた。その時の条件はペットの猫の餌やりとケアをすることだった。猫を飼った経験もあり即OKをした。その猫というのが外見はアメリカンショートヘア似だがかなり大型で性格はワイルドで粗野,少しもなつかない。夜,寝ようと寝室に行くと,わがもの顔で飼い主のベッドを占領している。手で追い払おうとしたその瞬間,左の手のひら親指の根元をガブリとやられた。口の大きさにも驚いたが歯が皮膚を突き抜けて肉まで入ってしまった! もしや神経が切れていまいかと思わず指を動かしていた。急ぎ水洗いをして止血もしたので,そのまま就寝した。翌朝ラボに行った時,昨夜猫に噛まれたと話したら,血相を変えて,破傷風の予防注射はしているかと聞かれた。はあ? そんな予防接種の記憶はないが念のため日本に急遽電話もして確かめ,多分していないと伝えたら,即救急病院に連れていかれ,破傷風の血清を打たれた。当地では猫の歯に破傷風菌をもっていることが多く,子供たちは全員予防注射が義務づけられている土地だった。幸い大事に至らず無事に仕事を終え帰国したが,見知らぬ土地で突然ブスッと注射される気分は良いものではない。もし感染していたらと想像したら,ゾっとした。余談だが,後で聞いた話ではこの猫はすでに前科があり,この家に通っているハウスキーパーにもすでに噛みついたことがあったそうだ。

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